green mist      ~あなただから~
 ~真央~

「おい。忙しいか?」

ノックもせずに入ってくるのは、矢沢ぐらいのものだ。

「いや」

デスクの上の書類から目を離し、矢沢をチラリと見た。

「ぎぇ。なんだよ、その怖い目は? 宮野が、ショッピングモールで、お前が可愛い子を連れているのを見たっていうからさ」

自分でも、胸がビクンと跳ねたのが分かった。


「そうれがどうした」

矢沢を睨んで言った。


「ああ。なんか怖いなぁ。この間は、俺を置いて帰るしさ。まあいいや…… 今日は、帰るわ」

 矢沢は、そのままドアに向かって、後ずさりした。

「待て、話があるんだろ?」
  


 矢沢とよく行く、BARに来ていた。

「なんで、そんなに怒っているんだ?」

 矢沢が、ウィスキーの水割りの入ったグラスを持って口に運んだ。


「怒っている? 俺が?」

 俺も水割りのグラスを手にした。


「ああ。何があった、ショッピングモールで?」

 俺は、大きくため息をついた。


「何故、分かる?」

「お前が、ショッピングモールって。それだけで、何かありそうじゃないか?」

「それが…… よく、分からないんだ」

「うん?」



「あははははっ」

 事の成り行きを話すと、矢沢が腹を抱えて笑い出した。

「何がそんなに、可笑しいんだ?」

「だって、お前が恐竜の映画って? その顔で、ビビッて悲鳴あげたぁ。想像しただけで、笑えるわ」


「そこかよ。そうなんだよなぁ。映画みて食事までは、上手くいっていたと思うんだよ」

「その後、何か変わった事は無かったのか? 何か、気に障る事でも言ったんじゃないのか?」


「うーん。宮野が声かけてきたから、話していたくらいだ」

「ああ。それだな。間違いない」

「どうしてだよ。彼女がトイレに行っているあいだ、どうでもいい話していただけだ」


「お前、彼女に宮野の事、なんて紹介したんだ?」

「別に。紹介するほどの奴じゃない」


「お前は、バカなのか? 知らない女が声かけてきたら、気になるだろ? それに、彼女の事は、宮野になんて紹介した?」

「紹介って? なんて紹介したらいいか、わからんよ」


「ああ、ああ…… じゃあ、何で、機嫌損ねた理由、本人に聞かなかったんだ?」

「なんか…… 怖くてさ。おじさんとは合わないとか、一緒にいると恥ずかしいとか思われたんじゃないかって……」


「お前…… 重症だな…… 大事なのは、お前の気持ちなんじゃないの。おじさんだとか、俺には言い訳にしか聞こえないけどな」

「そう言うけど、いくつ離れていると思う。十二だぞ。このまま、頼れる知り合いの人ぐらいが、いい関係なんじゃないかってさ……」


「まあ、お前がそれでいいならいいんじゃないか? 可愛い子だったしな。すぐ、若くていい男が見つかるだろうな。あっ。俺も声かけてみようかな? 俺、お前みたいに、年の差とか気にしないしさ」

「ふざけんな!」

 矢沢の食べようとしていた、キャビアの乗ったクラッカーを奪い取った。

「おい! 最後の一個なのに!」


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