green mist      ~あなただから~
「あんな風に脅されたら、女性の方が不利に感じますよね?」
 「ええ…… 実は、三か月程前に、接触事故を起こしてしまって…… その時は、私の不注意だったので仕方がないんですが、相手が男の人で、もの凄く怒られてしまって……」

 そう、先生に振られた時だ。泣きながら運転していた私が悪い…… 本当に最近悪い事ばかりが続く…… この時は、そう思っていた。

「そうだったんですね。ケガは無かったですか? まだ、解決に至ってないとか?」

「大丈夫です。相手の方も私もケガは無かったですし、保険の処理も済みました」


「それなら良かったです。そういえば、車の中に植物が積んでありましたが、どのようなお仕事をされていらっしゃるんですか?」

「ええ。主に観葉植物のレンタルをしています。お貸しするだけでなく、その後の管理もしているんです。なので、こちらの銀行にも、定期的に手入れに来ています」


「なるほど…… 緑に囲まれた素敵なお仕事ですね」

 そう言われると、ちょっと後ろめたい。何社も受けたが面接で落とされ、やっとの思いで雇ってもらった会社だ。特別、植物が好きだったわけではないが、やってみたら、楽しくなってきてしまった。ちゃんと手をかければ、綺麗な緑に成長してくれる。今では、家の中も緑でいっぱいで、毎日植物に話かけながら手入れをしている。

「そうですね。楽しいです」

 彼の方を見て、微笑んだ。
 眼鏡の奥の彼の目が、少し微笑んだ気がした。


「くれぐれも、気を付けて帰って下さいね。今日は、早く帰ってしっかり休んで下さい」

 そうだ、私と余計な話をしている時間などない人なのだ。

「ありがとうございます。あの、お水代……」

「そんなの結構ですよ」

「でも……」

「では、僕も時々こちらの銀行に来るので、偶然にでもお会いしたら、また、お茶でものみましょう……」

 彼は、立ち上がると、柔らかな笑みを向けてくれた。

「はい」

 私は、目一杯の笑顔を向けて、頭を下げた。

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