green mist      ~あなただから~
 会社に戻って、彼に言われた通り、すぐに部長に報告した。

「何だ、そりゃ! 怖かっただろ? 一応、警察に連絡しておいた方がいいかな?」

 見た目は怖くてぶっきらぼうだが、意外におおらかで、人情味のある人だ。


「すみみません」

「水野君が、謝る事じゃないだろ。でも、その弁護士さんが近くにいてくれて良かったよ。外出先で何かトラブルがあったら、すぐに会社に連絡するように」

「はい」

 部長に念をおされて、すぐに会社に連絡するべきだったと反省した。
 今日は、頭を下げてばかりだ。それだけ、人に迷惑をかけてしまったという事なのだろう……


 銀行で手続きを済ませた書類を持って、経理部へ向かった。

「お疲れ様。今日はずいぶん遅かったわね」

 経理部で同期の、平松綾乃(ひらまつあやの)が、差し出した書類を受け取って言った。

「ちょっと、トラブルあって……」

 ざっくりと、駐車場での出来事を綾乃に話した。


「大変だったじゃない。大丈夫だったの? 若い女だから、脅せばいいと舐めたのね」

 綾乃は、かなりご立腹だ。

「多分ね…… なんか疲れた。今日は、早く帰って休むね」


「うん、そうしなよ。ああ、そうだ。会社に出入りしている企業さんから、合コンのお誘いがあったのよ。行こうよ」

「今、そういう気分じゃないんだけど……」

「ごめん、ごめん。だけどさ、いつまでも過ぎた失恋に、ウジウジしていたら、運気も悪くなるよ。そろそろ、他の男に目を向けてみなよ。香音の事、可愛いって言う人けっこういるよ」

「帰って寝る」

 綾乃に手を振って、くるりと向きを変えた。


「もー。日程決まったら連絡するからね!」

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