green mist      ~あなただから~
「でも、お仕事があるんじゃ?」

「家で、出来る仕事なんだ。自由にしていてくれていいから」

 どうしても事務所でやらなければならない事は済ませてきた。後は家で出来る事だけだ。


「お邪魔になりませんか?」

「いや。居てくれるだけでいいんだ」

 そう、そばに居てくれるだけでいい。
 それから……


「夜遅くに帰るのは心配だ。明日休みだし、泊まって行かないか?」
 
「へっ?」

 驚いた顔の彼女と目が合った。この顔を見るのは、今日は何度目だろうか?


「いやいや。変な意味では、部屋もあるし、僕は仕事があるから、ゆっくりしていてくれればいい」

 そりゃ、あんな事やこんな事を俺だってやりたい、だけど、こんな忙しい中で、大事な事をいい加減に進めたくない・
 彼女はニコリと笑った。


「時川さん、私の事を気にしてくださっているんですね。忙しいから、私が退屈してしまうんじゃないかって? でも、大丈夫ですよ。時川さんが忙しい事は、分かっているつもりです。それに、時川さんを待つ時間も、嬉しいんです」

「待つのが嬉しい?」

 俺には少し理解が出来なかった。予定の時間に来なければ苛立つものじゃないのだろうか?

「ええ。だって、私、待つ事を許されているんですよ。好きな人を、待っていてもいいなんて、そんな嬉しい事ありますか?」

「香音さん…… 君って子は…… でも、もしかしたら、約束してても会えない事があるかもしれないんだよ」


「それば…… 寂しいけど。でも、時川さんも寂しいって思ってくれますよね?」

「当たり前だ……」

 そうだ、当たり前だ。そんな事を今実感している。大事なのは、同じ気持ちだと言う事を、分かり合えているかという事なのかもしれない。

「だから、一緒にいて欲しいと思ったんだ……」

「はい。私も同じです。お泊りに、必要な物を買ってもいいですか?」


「えっ。ああ、勿論」

 泊まりを断られると思っていたのに、彼女の嬉しそうな笑顔に胸の奥が熱くなった。生きているってこういう事なんだなぁと思った。

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