green mist      ~あなただから~
 慌ててベッドから離れて、二人に彼の隣を譲った。

「大丈夫か? 人手が無いから無理したんだろ?」

 父だと思われる人が、心配そうに彼の顔を覗き込んだ」


「あなたが、むやみに仕事を引き受けるからでしょ? お金にならない案件ばかり!」

「そうか? お前が、難しい刑事事件ばかり引き受けるからじゃないか?」

「おばさんも、おじさんも、ここは病院ですからね」
 矢沢さんが両手を広げて、両親をなだめるように言った。
 彼は、何も言わず、目を閉じて寝たふりをしてしまった。

 私は帰った方が良さそうだ。

「それでは、私はこれで失礼します」

 頭を下げると、

「香音! ありがとう。心配しなくていいからな」


 寝たふりをした彼の目が開いた。寝たふりをしていればいいのに。

「ええ」

 心配そうに眉を下げた彼を見て頷いた。


「こちらは?」

 彼の母が、私に目を向けて言った。


「あっ。申し遅れました。水野香音です」

「彼女が、救急車を呼んでくれたんだ」

 彼が、ベッドから身を起こした。


「そうだったの…… それは、ありがとう」

 言葉とは反対に、怪訝そうな顔を母が向けた。


「おお! こんな可愛らしいお嬢さんが真央を…… そうか、そうか、私が玄関まで送りましょう」

 父がニコニコとして、私を病室のドアへ促した。

「おじさん忙しいだろ? 俺が送るから。心配するな、真央」

 矢沢さんが、彼の父より一歩前を歩き出した。


「矢沢! おやじ! 送らなくていいから」

 彼の太くて低い声に、矢沢さんと父が固まった。


「ありがとうございます。一人で帰れますので、大丈夫です」

 私は、頭を下げると、病室のドアへ向かった。

「気を付けて帰れよ!」

 彼の声に頷いた。母の方へ目を向けると、何かを考えているような厳しい目で私を見ていた。

 何か、よくない事が起きなければいいが……

 でも、今は彼が回復する事を考える方が先だ。
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