green mist      ~あなただから~
「香音! どうして逃げるんだ?」

「どうして? 逃げるしかないじゃない。お見合いだったんでしょ?」

 自分でも嫌になるくらい、子供っぽい言い方になってしまった。


「母が勝手にした事だ。僕は仕事の打ち合わせに来ただけだよ」

 いつもと変わらない彼の目と、落ち着いた言い方に嘘ではない事は分かる。
 だけど、嫌だった。彼が、別の女性と向き合っている事が…… 

 私の我儘かもしれないが、今は、わかったと笑顔を向ける事ができない。

 こんなところで泣いてはいけないと分かっているのに、ポロポロ涙が落ちてきて止める事が出来なかった。


「ごめんなさい。仕事中だから…… また、連絡しますね」

 背後からハイヒールの音が近づいて来た。

「時川君ここに居たの。パパ達も来たわ」

 甘い香りに吐きそうだ。

 パパってどういう事? お見合いが設定さてれていたって事だよね。


 彼の顔を見ることが出来ずに、車に向かって走り出した。

「香音!」

 背中に彼の声がしたが、もう、彼が追いかけて来る事は無かった。


 バックミラーに、彼が宮野さんとホテルの中へ戻っていく姿が映った。

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