結婚契約書に延長の条文はありませんが~御曹司は契約妻を引き留めたい~
一週間悩んだが、結論は出ていない。
とは言え、仕事もあるから二十四時間篝のことを考えていられるわけではなかった。
でも、ふとした折、時間が出来ると篝のことを考えてしまう。
あれから篝からは何の連絡も無い。香津美に考える時間をくれているのだろうか。
まだ一週間程度なのだから、向こうも色々と忙しいだろうし、もしかしたら今頃はあの提案を後悔しているかも知れない。
代わりに大原からは一日一回は連絡が来る。
木曜日の夜に二次会候補のお店に一緒に行こうと誘われている。
それにはOKの返事をしたが、それ以外のメールには軽くスタンプと短い言葉だけを返した。
木曜日。そろそろその日も終業時刻だという時間、メールが入った。
『仕事が終わったら家に来い』叔父からの短い命令口調のメールだった。
その後で花純からのメールが入った『ばれちゃった』
何を?と聞き返すまでもない。
烈火のごとく怒る叔父の顔を想像し、重いため息を吐いて、大原に今夜行けなくなったことをメールする。
仕事を終えて着替えている間に大原から返事が来て「残念だ。次の日程は来瀬さんが決めください」とあった。
いつも大原から先に連絡が来て、それに香津美が返事をするという繰り返しだった。
だから大原もそんなメールを送ってきたのだろう。
でも香津美に取って今は大原への気遣いより、叔父の怒りの方が重要だった。
ーでは、来週木曜日にお願いします。いいですか?
土日ということも考えたが、大原の休みがいつかわからないし、土日に会うのは少し躊躇われた。
大原から『了解しました。残念、来週まで我慢します』と、気になる文面が送られてきた。
駅から歩いて五分の距離を重苦しい足取りで叔父の待つ家に向かった。
玄関に見覚えのある車が停まっていることに気づいた。
「まさか」
急いで玄関を開けて中へ入ると、叔父の物では無いビジネスシューズが一足あった。
「ハハハハハハ、そうか、そうか」
予想に反してリビングからは叔父の笑い声が聞こえてきた。
恐る恐るリビングに続く扉を開けると、豪快に笑う叔父の笑い声が響いてきた。
「おお、香津美、帰ってきたか」
リビングには叔父と叔母、花純と篝がいた。
「お、お帰り、香津美」
どういう状況なのかと呆然としている香津美に花純が駆け寄ってきた。
「これ、どういう状況?」
小声で花純に尋ねる。
「お帰りなさい、香津美さん」
篝が立ち上がって香津美に近づいてくる。
「篝・・さん」
笑顔だけど何か含みのある表情に嫌な予感がする。
チラリと彼の視線が香津美の右側の首元に行く。そこは彼がキスマークを付けた場所。
クルーネックのストライプのブラウスからは首元がはっきり見える。そこにはもうその痕はない。
「香津美、そこに座りなさい」
叔父が自分の前のソファーを指し示す。
篝を右端にして、中央に香津美、左隣に花純が座る。
左側に座る篝のことを意識せずにはいられない。ただ今は叔父の一挙手一投足に集中しなくては。
「この前の見合い、お前が花純の代わりに行ったそうだな」
「は…」
「香津美がどうしても自分が行くって言うから」
隣から花純が香津美が言う前にしゃべり出した。
信じられない気持ちで花純を振り返った。
それでは花純の見合いを香津美が陣取ったと言っているも同然だ。
「見合いの代わりなど聞いたことがない。一体何を考えている。行った香津美も香津美だが、花純も何を考えている。わしの顔を潰す気か」
「す、すみません」
「ごめん、パパ」
「まあ、来瀬さん、私は気にしていません。私も遅刻した手前、今回のことはお互い様ということで」
「先ほどもそのように仰ってくださったが、さすが大企業の常務取締役を勤められているだけのことはありますな。いやあ、度量が違いますな」
篝という第三者がいなければ、きっと怒り狂っていただろう。それを思うと篝の存在が救世主のように思える。
しかし、わざわざ彼がここに来た理由は何だろう。まさか、嫌な予感がして今度は右隣の篝を見た。
彼は香津美の視線を感じてにこりと微笑む。
「それで、と言ってはなんですが、最初のお話に弱冠変更をお願いしてもよろしいでしょうか。もちろん祖父が約束した話はそのままで」
「と、言いますと?」
叔父がソファの背もたれから身を起こし、前のめりになる。
「せっかくのご縁です。我が家と来瀬家、私としてはこのままこの話を進めさせていただきたい」
「え?」
「香津美さんとの結婚を前提としたお付き合いを、認めていただきたいと思っています」
「か、篝さん!」
「うそぉ」
「何ですって!?」
「香津美ちゃんと!?」
篝以外の全員がそれぞれの思いを口にした。
叔母まで驚いて口を開けている。
とは言え、仕事もあるから二十四時間篝のことを考えていられるわけではなかった。
でも、ふとした折、時間が出来ると篝のことを考えてしまう。
あれから篝からは何の連絡も無い。香津美に考える時間をくれているのだろうか。
まだ一週間程度なのだから、向こうも色々と忙しいだろうし、もしかしたら今頃はあの提案を後悔しているかも知れない。
代わりに大原からは一日一回は連絡が来る。
木曜日の夜に二次会候補のお店に一緒に行こうと誘われている。
それにはOKの返事をしたが、それ以外のメールには軽くスタンプと短い言葉だけを返した。
木曜日。そろそろその日も終業時刻だという時間、メールが入った。
『仕事が終わったら家に来い』叔父からの短い命令口調のメールだった。
その後で花純からのメールが入った『ばれちゃった』
何を?と聞き返すまでもない。
烈火のごとく怒る叔父の顔を想像し、重いため息を吐いて、大原に今夜行けなくなったことをメールする。
仕事を終えて着替えている間に大原から返事が来て「残念だ。次の日程は来瀬さんが決めください」とあった。
いつも大原から先に連絡が来て、それに香津美が返事をするという繰り返しだった。
だから大原もそんなメールを送ってきたのだろう。
でも香津美に取って今は大原への気遣いより、叔父の怒りの方が重要だった。
ーでは、来週木曜日にお願いします。いいですか?
土日ということも考えたが、大原の休みがいつかわからないし、土日に会うのは少し躊躇われた。
大原から『了解しました。残念、来週まで我慢します』と、気になる文面が送られてきた。
駅から歩いて五分の距離を重苦しい足取りで叔父の待つ家に向かった。
玄関に見覚えのある車が停まっていることに気づいた。
「まさか」
急いで玄関を開けて中へ入ると、叔父の物では無いビジネスシューズが一足あった。
「ハハハハハハ、そうか、そうか」
予想に反してリビングからは叔父の笑い声が聞こえてきた。
恐る恐るリビングに続く扉を開けると、豪快に笑う叔父の笑い声が響いてきた。
「おお、香津美、帰ってきたか」
リビングには叔父と叔母、花純と篝がいた。
「お、お帰り、香津美」
どういう状況なのかと呆然としている香津美に花純が駆け寄ってきた。
「これ、どういう状況?」
小声で花純に尋ねる。
「お帰りなさい、香津美さん」
篝が立ち上がって香津美に近づいてくる。
「篝・・さん」
笑顔だけど何か含みのある表情に嫌な予感がする。
チラリと彼の視線が香津美の右側の首元に行く。そこは彼がキスマークを付けた場所。
クルーネックのストライプのブラウスからは首元がはっきり見える。そこにはもうその痕はない。
「香津美、そこに座りなさい」
叔父が自分の前のソファーを指し示す。
篝を右端にして、中央に香津美、左隣に花純が座る。
左側に座る篝のことを意識せずにはいられない。ただ今は叔父の一挙手一投足に集中しなくては。
「この前の見合い、お前が花純の代わりに行ったそうだな」
「は…」
「香津美がどうしても自分が行くって言うから」
隣から花純が香津美が言う前にしゃべり出した。
信じられない気持ちで花純を振り返った。
それでは花純の見合いを香津美が陣取ったと言っているも同然だ。
「見合いの代わりなど聞いたことがない。一体何を考えている。行った香津美も香津美だが、花純も何を考えている。わしの顔を潰す気か」
「す、すみません」
「ごめん、パパ」
「まあ、来瀬さん、私は気にしていません。私も遅刻した手前、今回のことはお互い様ということで」
「先ほどもそのように仰ってくださったが、さすが大企業の常務取締役を勤められているだけのことはありますな。いやあ、度量が違いますな」
篝という第三者がいなければ、きっと怒り狂っていただろう。それを思うと篝の存在が救世主のように思える。
しかし、わざわざ彼がここに来た理由は何だろう。まさか、嫌な予感がして今度は右隣の篝を見た。
彼は香津美の視線を感じてにこりと微笑む。
「それで、と言ってはなんですが、最初のお話に弱冠変更をお願いしてもよろしいでしょうか。もちろん祖父が約束した話はそのままで」
「と、言いますと?」
叔父がソファの背もたれから身を起こし、前のめりになる。
「せっかくのご縁です。我が家と来瀬家、私としてはこのままこの話を進めさせていただきたい」
「え?」
「香津美さんとの結婚を前提としたお付き合いを、認めていただきたいと思っています」
「か、篝さん!」
「うそぉ」
「何ですって!?」
「香津美ちゃんと!?」
篝以外の全員がそれぞれの思いを口にした。
叔母まで驚いて口を開けている。