結婚契約書に延長の条文はありませんが~御曹司は契約妻を引き留めたい~
「良い物を身につければ、それに見合う者になろうと人は気を引き締めるものだ。和海はまだまだ服に着られているということだ」
「光太郎さん、和海はよく頑張っていますよ。この前も褒めていたではありませんか」
「うむ、だが仕事が出来ても女性にその真価を発揮できないのはどういうものかな」
「おじい様の言うとおり、俺もまだまだだと思います。でも、そんな足らない自分を補ってくれるのが香津美だと思っています」

ちょっと持ち上げすぎでは? それ以上は言うなという気持ちを込めて、篝の祖父母に気づかれないように、自分の横に伸びていた彼の腕を抓った。
彼の頬がピクリと動いたのがわかった。

「いや、すまない。和海がこれまで女性をここに連れてきたことがないものだから、香津美さんが特別なのはわかるが、祖父としてはいささか心配でね。香津美さんに不満があるわけでは無いんだ」
「いえ、大切なお孫さんのことですから、心配されるのは当たり前です。Kagariホールディングスの御曹司の結婚相手ともなれば、もっといい家のお嬢様をと思われるでしょう。リアルエステート来瀬の社長は叔父で、私は両親もいない身ですから」
「それは関係ない! ご両親がいないのも香津美さんのせいではない。それを言うなら俺も父親はいない。母親は・・まあ、今の生活が維持できるなら、俺のことは関心が無いかな」

そう言えば、お父様は亡くなり、お母様は生きているが独身を謳歌していると言っていた。

「母は今友人と外洋クルーズに出ている。戻るのは」
「三ヶ月後だと思うわ。でも、その後もまたすぐどこかに行くでしょう」

篝の言葉を祖母が継いだ。いつも出歩いていていないのが普通らしい。

「そういうことだから、おじい様達に認めてもらえばそれでいい。認めてもらえなくても香津美さんとの結婚は諦めませんが」
「まあ、そう慌てるな。誰も認めないとは言っていない。お前にしては珍しく食い下がるな。仕事意外でそんな熱意を見せるのは初めてだ」
「そうね。それだけ香津美さんのことを思っているということね。私は構いませんよ。実家がどうとかより、香津美さんを見ればきちんとした娘さんだとわかりますし、こんな和海の姿を見られて面白かったわ」
「おいおい、自分だけいい顔をするな。私も香津美さんなら依存はないぞ」

心の底から認めてくれているのがわかり、罪悪感が胸を過ぎる。これが契約で成り立つ関係だとは知らない二人は、香津美と篝が運命の恋に落ちたとでも思っているのだろう。
今でも仲が良い二人だから、若い二人の恋愛について肯定的なのはわかる。

「それで、すぐにも籍を入れて・・」
「まあ、待ちなさい。そう慌てなくても」
「おばあ様がおっしゃったんですよね。年内に結婚しろと。だからお見合いもしました」
「あら、そうだったかしら」

篝の言葉に美幸がとぼけた様子で応える。

「そうでもしないと、お前はいつまで経っても結婚しないだろう」
「そうよ。幸い私の病気は今回大したことはなかったけど、私も光太郎さんもいつまでも生きてはいられないのよ」
「わかっています。だからこうして俺も香津美さんと結婚しようとつれてきたんです」
「なら我々に感謝してもらわないとな」
「そうね、私たちが発破をかけたお陰で香津美さんと出会えたんですから」

そこまで言われると、ますますやり辛くなる。三年後には離婚するのだから。

「あの、そろそろお暇させていただきます。私の住んでいるところまでちょっと距離がありますから」

香津美の勤める大学を挟んで反対側にここと香津美の借りているアパートがある。
篝が普段住んでいるマンションの場所がどの辺りかは知らないが、明日が休みとは言えあまり遅くなるのも申し訳ない。

「そうね。またお会いできるかしら? 今度は和海抜きで」
「え!」
「おばあ様、それは」
「和海は黙ってて、女同士で会いたいと言っているの、邪魔しないで」
「苛めないでください」
「まあ、失礼ね。そんな小姑みたいなことしません。でも、和海の小さい頃のあんなことやこんなこと、しゃべってしまうかも」
「お、おばあ様!」

焦って叫ぶ和海を見て香津美はクスリと笑った。
色々言っていても、彼からは祖父母に対する親愛の情がありありと見て取れ、そんな彼となら三年間の結婚期間もあっと言う間に過ぎるだろう。

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