結婚契約書に延長の条文はありませんが~御曹司は契約妻を引き留めたい~
「まあ、香津美さんがそう言うなら・・本当に、我慢はしていないんだろうね」
「ええ、のびのびさせていただいています」
「それならいいのよ。お正月からごめんなさい」
「いえ、心配して頂きありがとうございます」
「和海もごめんなさいね。あなたたちがうまくいっているなら、それでいいの」
「はあ」
和海は特に怒ってはいないようだったが、何か他のことを考えているのか心ここにあらずといった感じだった。
経営者ともなれば、会社の関係者などが年始の挨拶に来ることもある。元旦だけは家族で過ごすが、翌日から来客のラッシュが続く。
元旦の夜はいつも篝の家に泊まり、次の日訪れた客の相手をしてから夕方に帰るのが常だった。
「篝さん、あけましておめでとうございます」
「来瀬さん、あけましておめでとうございます」
叔父の家族もその中の一人だった。光太郎とあいさつを交わし、叔父が香津美にも目を向ける。
「香津美、元気だったか」
花純はこれまで一度も来たことがないが、今年はどうやら何の約束もなかったのか、不承不承来たのがわかる顔だ。
「叔父さん、お久しぶりです」
ぎこちない笑顔で叔父達に挨拶する。
「おめでとうございます。来瀬さん」
「あ、ああ篝さん、おめでとうございます」
「香津美は台所でおばあ様達のお手伝いをしておいで」
「はい」
香津美は相変わらず叔父達が苦手だったが、和海がいつも彼らの防波堤になって率先して相手をしてくれる。
「ねえ、香津美」
和海に言われて台所へと向かう途中、花純が廊下まで追ってきた。
「初めて来たけど、大きなお家ね。家とは比べものにならないわ」
廊下にある絵や壺などを値踏みしつつ、そう言ってくる。
「来瀬の家もそこそこ大きいでしょ」
ただし、叔父たちの成金趣味のせいでかなりけばけばしくなりつつある。
祖父たちが居た頃は、もう少し過ごしやすい雰囲気だったのを思い出す。
「結婚してもうどれ位?」
「今年の秋で三年目になるわ」
「もうそんなに? 早いなぁ」
「そうね。あっという間ね」
「うまくやっているの?」
「お陰様で…」
「ふうん…」
「何? 何か言いたいことでも?」
壁にある静物画を見上げながら、視線だけを意味ありげにこちらへ動かす。
何か企んでいる花純の顔だと思った。
「この前さ、クリスマスに友達と道を歩いていたら、すごい美人と歩いている篝さん見たから」
友達とは多分彼氏だろう。花純は相変わらずうだつの上がらないバンドマンや、自称クリエイターとばかり付き合っている。
「すごい・・美人?」
「そ、香津美とは違うバリキャリって感じのすごい美人」
和海が? そう考えて花純の言うことなのだから話半分以下で聞くべきだと思った。
「仕事関係とかでしょ。秘書の人かも」
「えー、でも何だか腕組んでたし」
花純は納得しなさげだった。ただ横に並んで歩いていただけなのを、大袈裟に言っているだけ。その場はそう思うことにして「そう」とだけ、努めて冷静に受け答えした・・つもりだった。
心の中では焦りを隠せない。
クリスマス。あの日は確か取引先の接待だと言っていた。だからきっとそれは秘書の大原さんなんだろう。
もうすぐ約束の三年目が来る。敢えてこれからについて二人で話し合ったことはない。意識的に避けてきたのかも知れない。
彼女は和海が今の地位に就任してから秘書になった。それまでは他の部署で働いていたと聞いていた。
となれば、彼女が秘書になったのは香津美と結婚してからのこと。
もしかしたら、和海は離婚後のことを考え始めているのかも知れない。
ふと、そんな考えが脳裏を過ぎった。
「ええ、のびのびさせていただいています」
「それならいいのよ。お正月からごめんなさい」
「いえ、心配して頂きありがとうございます」
「和海もごめんなさいね。あなたたちがうまくいっているなら、それでいいの」
「はあ」
和海は特に怒ってはいないようだったが、何か他のことを考えているのか心ここにあらずといった感じだった。
経営者ともなれば、会社の関係者などが年始の挨拶に来ることもある。元旦だけは家族で過ごすが、翌日から来客のラッシュが続く。
元旦の夜はいつも篝の家に泊まり、次の日訪れた客の相手をしてから夕方に帰るのが常だった。
「篝さん、あけましておめでとうございます」
「来瀬さん、あけましておめでとうございます」
叔父の家族もその中の一人だった。光太郎とあいさつを交わし、叔父が香津美にも目を向ける。
「香津美、元気だったか」
花純はこれまで一度も来たことがないが、今年はどうやら何の約束もなかったのか、不承不承来たのがわかる顔だ。
「叔父さん、お久しぶりです」
ぎこちない笑顔で叔父達に挨拶する。
「おめでとうございます。来瀬さん」
「あ、ああ篝さん、おめでとうございます」
「香津美は台所でおばあ様達のお手伝いをしておいで」
「はい」
香津美は相変わらず叔父達が苦手だったが、和海がいつも彼らの防波堤になって率先して相手をしてくれる。
「ねえ、香津美」
和海に言われて台所へと向かう途中、花純が廊下まで追ってきた。
「初めて来たけど、大きなお家ね。家とは比べものにならないわ」
廊下にある絵や壺などを値踏みしつつ、そう言ってくる。
「来瀬の家もそこそこ大きいでしょ」
ただし、叔父たちの成金趣味のせいでかなりけばけばしくなりつつある。
祖父たちが居た頃は、もう少し過ごしやすい雰囲気だったのを思い出す。
「結婚してもうどれ位?」
「今年の秋で三年目になるわ」
「もうそんなに? 早いなぁ」
「そうね。あっという間ね」
「うまくやっているの?」
「お陰様で…」
「ふうん…」
「何? 何か言いたいことでも?」
壁にある静物画を見上げながら、視線だけを意味ありげにこちらへ動かす。
何か企んでいる花純の顔だと思った。
「この前さ、クリスマスに友達と道を歩いていたら、すごい美人と歩いている篝さん見たから」
友達とは多分彼氏だろう。花純は相変わらずうだつの上がらないバンドマンや、自称クリエイターとばかり付き合っている。
「すごい・・美人?」
「そ、香津美とは違うバリキャリって感じのすごい美人」
和海が? そう考えて花純の言うことなのだから話半分以下で聞くべきだと思った。
「仕事関係とかでしょ。秘書の人かも」
「えー、でも何だか腕組んでたし」
花純は納得しなさげだった。ただ横に並んで歩いていただけなのを、大袈裟に言っているだけ。その場はそう思うことにして「そう」とだけ、努めて冷静に受け答えした・・つもりだった。
心の中では焦りを隠せない。
クリスマス。あの日は確か取引先の接待だと言っていた。だからきっとそれは秘書の大原さんなんだろう。
もうすぐ約束の三年目が来る。敢えてこれからについて二人で話し合ったことはない。意識的に避けてきたのかも知れない。
彼女は和海が今の地位に就任してから秘書になった。それまでは他の部署で働いていたと聞いていた。
となれば、彼女が秘書になったのは香津美と結婚してからのこと。
もしかしたら、和海は離婚後のことを考え始めているのかも知れない。
ふと、そんな考えが脳裏を過ぎった。