結婚契約書に延長の条文はありませんが~御曹司は契約妻を引き留めたい~
「疲れた?」

篝の実家から帰る車の中、黙ったままの香津美に和海が尋ねた。

「今日も人多くて大変だったよね」
「あ、う、うん。料理、足りるか心配だったわ」
「おじい様達も喜んでいたよ。いいお嫁さんもらったって。香津美のお陰で俺の株も爆上がりだ」
「そんなこと・・」
「でも、ほんと、感謝している。ありがとう。4日から仕事だから、明日はゆっくりしよう」
「ええ」

和海がちらりと運転席から流し目を向ける。色気を含んだその視線に「ゆっくりしよう」という言葉に隠れた真意を悟り、香津美の体が一気に火照った。
和海はすでに香津美の体を隅から隅まで知り尽くし、彼にキスされ肌をその手がほんの少し掠めただけで、香津美は簡単に彼の手に落ちてしまう。
感じやすくなった香津美の体を和海は余すこと無く堪能し、その体に自身の痕跡を刻みつけていく。
香津美が目にする場所以外に、見えないところや際どい場所にもそれは散らばる。
仕事で長い間いなくなる時以外は、それがすべて消える頃に、また和海は香津美を抱く。
仕事納めから年末にかけては、毎晩二人は夜を共にしていた。日付が変わり、新年を迎えた瞬間、香津美の中には和海がいて、なにげに和海は「エッチ納めとエッチ始め」と呟いていた。
そんなふざけた物言いを和海がするとは思わず、一瞬「え」となったが、すぐに和海が動き出してあっと言う間に香津美は考えることが出来なくなった。
体を重ねるごとに香津美の中に和海が入り込む、それは少しずつ蓄積され、和海の視線ひとつで香津美の体温は跳ね上がる。
でもそれは体だけのこと。
和海が本当のところ香津美のことをどう思っているのか、真っ正面からそれを尋ねたことはなかった。
好意を持っていることはわかる。和海は女性に対して見境がない人間ではない。女性なら誰彼構わず抱く人でも、迫られてそれに応える人でもない。
こんなに情熱的に香津美を抱くのも、時に優しく労るように愛撫するのも、「妻」という役割を演じる彼女に少なからずの愛情を持ってくれているからだとはわかる。
ただ、その想いが香津美が彼に対して抱く気持ちと同じ重さかと問われれば、答えがわからない。

「あ・・はあ、あ」

喘ぐ香津美の上と下の両方の口に和海の指が差し込まれる。涎と愛液が彼の指を濡らし、ぐちょぐちょとした水音が喘ぎ声に混じって聞こえてくる。舌が耳の穴を塞ぐように差し込まれ、淫靡な和海の息づかいが直接脳を侵してくる。

「も、ああ・・和海さん」

篝の家から戻って、玄関の鍵を閉めた途端、和海は香津美の唇を奪い、そのまま二人は寝室へとなだれ込んだ。
コートとバッグは上がり口に置き去りにし、セーターの下から差し込まれた手が胸を揉み込む。コーデュロイスカートのホックが外され足下にバサリと落ちた。下着とタイツ姿になった香津美の体が、帰ったばかりで暖房の入っていない部屋の冷気でブルリと震えた。

「ごめん、すぐに温かくするから」

少し唇をずらし、和海が言ってその胸に香津美を抱き寄せる。

寝室の扉を開けて、「アレクサ、暖房を」という和海の声に反応して、暖房のスイッチが入り「暖房を二十六度で運転します」という声が聞こえた気がしたが、香津美の耳にはそれは遠くの出来事のように聞こえた。

キャミソールとブラ、黒のタイツの香津美をベッドの上に横たえ、和海は着ていた服を一枚一枚剥いでいく。仕立てのいいスーツの上着を放り投げ、ネクタイを緩めカフスもボタンもひとつひとつ外していく姿を、カーテンから差し込む僅かな光が照らす。
上半身裸になってから、ベッドの上によじ登り、待ち構える香津美の上に四つん這いになる。

「香津美、綺麗だ」

ドキドキとしながら、覆い被さる和海の唇に応えた。下着の上から和海の大きな手が胸を包み込む。ゆっくりと乳房を揺らしその中心を摘まむ。その刺激だけで香津美の蜜口からじっとりと湿り気を帯びる。

その日の和海はいつにも増してじっくりと香津美に触れ、じれったくなるくらいだった。

「お願い・・もう・・和海さん」

指と唇で何度もイかされ、指では届かない奥が疼く。満たされないもどかしさに香津美の腰が揺れ動く。

「何が?」

そんな香津美の姿を見て、意地悪く微笑む。

「何がほしい?」
「や、意地悪しないで」

敏感になった胸の先端をさっと和海の唇が掠め、膨れ上がった愛芽も指で押し潰す。その刺激で香津美の体はまた跳ね上がる。

「ほしいものは、口で言ってくれないとわからないよ」

いつもなら何も言わなくても香津美の反応を見て和海が動く。なのにその日は香津美がいくら目で訴え、腰を揺らしても和海は肝心なものをくれなかった。

「・・・ださい」
「え?」
「和海さんの・・その、硬くて熱いもの、ここに、ここに入れてください」

恥ずかしさに目を潤ませ、足を開いて自分の潤んだ部分を和海の目の前に晒し、精一杯懇願した。

「まあいいか・・俺も限界だし」

口にコンドームの袋を咥えて封を開けると、そそり立った自分の陰茎に装着して、ヒクヒクと蠢く香津美の中へと侵入してきた。
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