結婚契約書に延長の条文はありませんが~御曹司は契約妻を引き留めたい~
「保養所として契約しているところがいくつかある。海でも山でも香津美の希望するところで探せるよ」
「あ、そうですね」
和海がKagariホールディングスの御曹司だということを忘れていた。和海なら繁忙期に人気の場所のホテルを押さえることなど造作もないことだろう。
「もしかして、俺がKagariホールディングスの専務取締役だってこと、忘れていた?」
図星を突かれて、「実はそうです」と正直に答えた。
「香津美は変わらないね」
「え、そうですか? そんなに私って成長していません?」
ここ三年で仕事の責任も増えて、後輩からは慕われている。自分なりに社会人としての責任と自覚はちゃんとあるつもりだった。
そう言うと、和海はまたもや笑いを返してくる。
「そういうことじゃない。香津美が仕事をきちんとこなしているのはわかっている。俺が言いたいのは、Kagariホールディングスの専務取締役の篝 和海というブランドも、香津美には通用しない」
「そんなことありませんよ。和海さんと結婚して、大学でのお給料は全部自分のために使わせてもらっていますし、普通なら家計のやりくりを気にしないといけないのに、月々いくらいるとか悩まず生活できているのも、和海さんのお陰です」
光熱水費や諸々の支払いは全部和海持ち。香津美が負担しているものは自分に掛かるものと、自炊する分の食費だけ。光太郎達へのプレゼントは頼み込んで折半してもらえたが、香津美が用意した和海へのプレゼントに対し、和海がくれるプレゼントの値段は倍ではきかない。
「案外うまく行っているようで安心したわ」
そんなやりとりを話すと、可奈子もようやく安心してくれた。
「大原くんって憶えている?」
「え、う、うん。可奈子達の二次会を一緒にした人、だよね」
「そう、彼がね。柾に会う度に香津美の様子を聞いてくるらしいの」
「え、どうして?」
「さあ、香津美のこと、諦められないんじゃ無いかな」
「諦めるも何も、彼とは何もないわ」
「それはさ、私たちの結婚より先に香津美が篝さんと婚姻届出してしまったから、彼が告白する前に振っちゃったようなものでしょ」
「そんなこと・・」
「もちろん、香津美のせいでも何でもないわ。こういうのはタイミングもあるから。彼が後一ヶ月早く香津美に会っていたら、篝さんと結婚なんてしなかっただろうし」
和海と大原との出会いのタイミングが逆だったら、香津美は大原と付き合っていただろか。
あくまで想像の範囲だが、そうはならなかっただろうと香津美は思った。
「大原さんはいい人だと思うけど、彼と先に出会っていたとしても私は和海さんを選んだかもしれない」
「あら、初めてね。香津美がそんな風に篝さんのことを言うの」
「そうね。あ、でも恥ずかしいからここだけの話にしてね」
思わず口にしてしまった。聞き上手の可奈子が醸し出す雰囲気につい乗せられた。
誰にも和海に対する気持ちを打ち明けたことはなかった。言霊を信じるつもりはないが、口にしたら蓋をしていた気持ちが溢れ出来そうな予感があった。
「柾には、今度大原君に会ったら、もう諦めた方がいいよって言ってもらうわ」
「そこまでしなくても、ただ一緒に二次会の幹事をしたから、どうかって気にしてくれているだけだと思うわ」
「そう思っているの、香津美だけよ」
そんなことないと言おうとしたが、その時可奈子の電話が鳴った。
電話は子どもの面倒を見てくれていた可奈子の母親からで、昼寝から覚めて母親がいないことに気づいて泣き止まないというものだった。
「ごめん、香津美。また今度ね」
「ここでの支払いはしておくから、早く行って」
慌てる可奈子を見送り、香津美は一人で暫くその場に残った。
可奈子と夕食まで一緒にいる予定だったが、予定よりかなり早く用事が終わってしまった。
今日も和海は遅いと言っていた。一人分の夕食を今から帰って作るのも面倒だと思い、一人でどこかで食べるか買って帰るか。夏なので買って帰るのもどうかと、一人で入れるお店を探して支払いを済ませて店を出た。
「あ、そうですね」
和海がKagariホールディングスの御曹司だということを忘れていた。和海なら繁忙期に人気の場所のホテルを押さえることなど造作もないことだろう。
「もしかして、俺がKagariホールディングスの専務取締役だってこと、忘れていた?」
図星を突かれて、「実はそうです」と正直に答えた。
「香津美は変わらないね」
「え、そうですか? そんなに私って成長していません?」
ここ三年で仕事の責任も増えて、後輩からは慕われている。自分なりに社会人としての責任と自覚はちゃんとあるつもりだった。
そう言うと、和海はまたもや笑いを返してくる。
「そういうことじゃない。香津美が仕事をきちんとこなしているのはわかっている。俺が言いたいのは、Kagariホールディングスの専務取締役の篝 和海というブランドも、香津美には通用しない」
「そんなことありませんよ。和海さんと結婚して、大学でのお給料は全部自分のために使わせてもらっていますし、普通なら家計のやりくりを気にしないといけないのに、月々いくらいるとか悩まず生活できているのも、和海さんのお陰です」
光熱水費や諸々の支払いは全部和海持ち。香津美が負担しているものは自分に掛かるものと、自炊する分の食費だけ。光太郎達へのプレゼントは頼み込んで折半してもらえたが、香津美が用意した和海へのプレゼントに対し、和海がくれるプレゼントの値段は倍ではきかない。
「案外うまく行っているようで安心したわ」
そんなやりとりを話すと、可奈子もようやく安心してくれた。
「大原くんって憶えている?」
「え、う、うん。可奈子達の二次会を一緒にした人、だよね」
「そう、彼がね。柾に会う度に香津美の様子を聞いてくるらしいの」
「え、どうして?」
「さあ、香津美のこと、諦められないんじゃ無いかな」
「諦めるも何も、彼とは何もないわ」
「それはさ、私たちの結婚より先に香津美が篝さんと婚姻届出してしまったから、彼が告白する前に振っちゃったようなものでしょ」
「そんなこと・・」
「もちろん、香津美のせいでも何でもないわ。こういうのはタイミングもあるから。彼が後一ヶ月早く香津美に会っていたら、篝さんと結婚なんてしなかっただろうし」
和海と大原との出会いのタイミングが逆だったら、香津美は大原と付き合っていただろか。
あくまで想像の範囲だが、そうはならなかっただろうと香津美は思った。
「大原さんはいい人だと思うけど、彼と先に出会っていたとしても私は和海さんを選んだかもしれない」
「あら、初めてね。香津美がそんな風に篝さんのことを言うの」
「そうね。あ、でも恥ずかしいからここだけの話にしてね」
思わず口にしてしまった。聞き上手の可奈子が醸し出す雰囲気につい乗せられた。
誰にも和海に対する気持ちを打ち明けたことはなかった。言霊を信じるつもりはないが、口にしたら蓋をしていた気持ちが溢れ出来そうな予感があった。
「柾には、今度大原君に会ったら、もう諦めた方がいいよって言ってもらうわ」
「そこまでしなくても、ただ一緒に二次会の幹事をしたから、どうかって気にしてくれているだけだと思うわ」
「そう思っているの、香津美だけよ」
そんなことないと言おうとしたが、その時可奈子の電話が鳴った。
電話は子どもの面倒を見てくれていた可奈子の母親からで、昼寝から覚めて母親がいないことに気づいて泣き止まないというものだった。
「ごめん、香津美。また今度ね」
「ここでの支払いはしておくから、早く行って」
慌てる可奈子を見送り、香津美は一人で暫くその場に残った。
可奈子と夕食まで一緒にいる予定だったが、予定よりかなり早く用事が終わってしまった。
今日も和海は遅いと言っていた。一人分の夕食を今から帰って作るのも面倒だと思い、一人でどこかで食べるか買って帰るか。夏なので買って帰るのもどうかと、一人で入れるお店を探して支払いを済ませて店を出た。