結婚契約書に延長の条文はありませんが~御曹司は契約妻を引き留めたい~
その時、香津美の鞄の中の携帯がブルブルと震えているのに気づいた。
「あ、すみません」
鞄から取り出し発信元を見ると、それはこれから会う予定の可奈子からだった。
「これから会う友人からです」
「どうぞ」
篝に断りを入れて席を立ち框へと出る。
「も、もしもし」
『あ、香津美? 今大丈夫?』
「ええ、どうしたの何かあった?」
都合が悪くなって遅れるとかキャンセルとかだろうか。
『実は香津美に二次会の幹事お願いしたいと思って、引き受けてくれるかな』
「幹事? やったことないけど、できるかな」
『大丈夫。実は柾の友達にも頼んでいて、その人が経験あるみたいだから、香津美は受付とか手伝ってくれるだけで他は全部その人がやってくれるんだって』
柾さんは可奈子の結婚相手で、二度ほど会ったことがある。彼女とは職場恋愛だ。
「なら、やってもいいよ」
『ほんと? じゃあ、顔合わせも兼ねて今日一緒に柾も交えて四人で会わない?』
「うん、いいよ。場所はこの前言っていたところでいいの? うん、わかった、じゃあ五時にね」
電話を切り、ふうとため息をついた、本当は今日は可奈子と二人で会いたかった。このところ仕事と結婚準備で彼女とゆっくり話す時間もない。必要なことなのだが、彼女の結婚相手と初対面の人に会うのは緊張する。
ふと、今一緒にいる人も初対面だと気づいた。人見知りの自分が同じ日に続けて初対面の人に会うなんて、それだけで精神を消耗する。
「電話、大丈夫だった?」
こちらが話している内容は聞こえていただろうけど、あえて聞こえていない振りをする。
「はい。結婚式の二次会を頼まれて」
「へえ、仲いいんだ」
「ええ、それで今日一緒に幹事をする婚約者の友人だという人と会うことになって・・あ、興味ないですよね」
会ったことも無い相手のことを聞いても、つまらないだろう。
「二次会の幹事のペアね。それって男性だよね」
「はい、もちろん」
「式、いつ?」
「え? あ、十一月三日」
予想に反して彼は質問をしてきた。
「祝日か、何時から?」
「午後1時から・・」
彼は携帯を取り出し、何やら調べている。
「オッケー、予定を空けておく」
「え?」
「式に呼んで、なんて図々しいことは言わないけど、送っていくならいいでしょ。帰りも迎えに行くよ」
「・・・どうして?」
「だって奥さんになる人の友達にお祝いを言いたいから」
「お、奥さん? 誰が誰の?」
「もちろん、君が俺の奥さん。先に入籍するなら、君の方が先に人妻になるのかな」
軽く目眩がしてガタリと襖にもたれかかった。自分は宇宙人と話をしているのだろか。
「あの、私の話、聞いてましたよね」
「君こそ、俺の話、聞いていたよね」
そう言うと、彼は立ち上がって私の前に立った。
部屋の灯りが彼の体に遮られ、暗くなる。襖と彼に挟まれる形になり、携帯を握る手に力が入った。
「な、篝さん」
声が震える。灯りを背にして暗い影を落とす彼の表情から冗談めいた気配が消えた。
「背、高いんだね」
「え、ええ。でもあなたの方が高い」
168センチの香津美より十センチは高そうだ。背比べでもしたいのだろうか。
「あの、かが・・んんん」
不意に唇を重ねられ、驚いて口を開けてしまったらそこに舌がすかさず滑り込んできた。
普通ならキスは目を閉じるものなのだろうが、香津美は思い切り目を見開き至近距離の篝の顔を凝視した。
近すぎるので焦点がうまく合わないが、篝の伏せられた長い睫が見える。肌もきめ細かく、男性と言えど自分より綺麗なくらいだ。こんな人が自分に結婚を迫っている。実質的で色気も何も無い提案だった。
ぱちりと彼も目を見開き、彼女の目を見据えてくる。
瞬きするのも忘れて、見つめ合いながら口づけが続いた。
舌が口腔内を撫で回し、彼女の舌に絡みつく。クチュクチュという音が耳に響いた。
ゴトリと何かが足の甲の上に落ちて、顔を顰めた。
痛いという言葉は口づけに塞がれたが、反射的に足を上げた。
ガッ!
「うっ」
唇が離れ、彼が呻いた。
びっくりして上げた表紙に膝が篝の向こう脛を蹴った。
「す・・」
蹴られた向こう脛をさする彼に思わず謝りかけが、謝るのは彼の方ではないか?
「な、何なんですか、いきなり」
慌てて香津美は篝の体を押すが、彼の体はびくともしない。
「結婚する予定の男女がキスをするのはおかしくないと思うが」
「だ、だからさっきから何度も・・」
「今のキスで何も感じなかったか?」
「え?」
押し退けようとして彼の肩に当てた手を掴まれ、きゅっと握られる。
「キス、少しでもときめいた?」
「そっ!」
そんなわけないと言おうとして一瞬言葉が詰まった。それが答えとばかりに彼が微笑んだ。
「あ、すみません」
鞄から取り出し発信元を見ると、それはこれから会う予定の可奈子からだった。
「これから会う友人からです」
「どうぞ」
篝に断りを入れて席を立ち框へと出る。
「も、もしもし」
『あ、香津美? 今大丈夫?』
「ええ、どうしたの何かあった?」
都合が悪くなって遅れるとかキャンセルとかだろうか。
『実は香津美に二次会の幹事お願いしたいと思って、引き受けてくれるかな』
「幹事? やったことないけど、できるかな」
『大丈夫。実は柾の友達にも頼んでいて、その人が経験あるみたいだから、香津美は受付とか手伝ってくれるだけで他は全部その人がやってくれるんだって』
柾さんは可奈子の結婚相手で、二度ほど会ったことがある。彼女とは職場恋愛だ。
「なら、やってもいいよ」
『ほんと? じゃあ、顔合わせも兼ねて今日一緒に柾も交えて四人で会わない?』
「うん、いいよ。場所はこの前言っていたところでいいの? うん、わかった、じゃあ五時にね」
電話を切り、ふうとため息をついた、本当は今日は可奈子と二人で会いたかった。このところ仕事と結婚準備で彼女とゆっくり話す時間もない。必要なことなのだが、彼女の結婚相手と初対面の人に会うのは緊張する。
ふと、今一緒にいる人も初対面だと気づいた。人見知りの自分が同じ日に続けて初対面の人に会うなんて、それだけで精神を消耗する。
「電話、大丈夫だった?」
こちらが話している内容は聞こえていただろうけど、あえて聞こえていない振りをする。
「はい。結婚式の二次会を頼まれて」
「へえ、仲いいんだ」
「ええ、それで今日一緒に幹事をする婚約者の友人だという人と会うことになって・・あ、興味ないですよね」
会ったことも無い相手のことを聞いても、つまらないだろう。
「二次会の幹事のペアね。それって男性だよね」
「はい、もちろん」
「式、いつ?」
「え? あ、十一月三日」
予想に反して彼は質問をしてきた。
「祝日か、何時から?」
「午後1時から・・」
彼は携帯を取り出し、何やら調べている。
「オッケー、予定を空けておく」
「え?」
「式に呼んで、なんて図々しいことは言わないけど、送っていくならいいでしょ。帰りも迎えに行くよ」
「・・・どうして?」
「だって奥さんになる人の友達にお祝いを言いたいから」
「お、奥さん? 誰が誰の?」
「もちろん、君が俺の奥さん。先に入籍するなら、君の方が先に人妻になるのかな」
軽く目眩がしてガタリと襖にもたれかかった。自分は宇宙人と話をしているのだろか。
「あの、私の話、聞いてましたよね」
「君こそ、俺の話、聞いていたよね」
そう言うと、彼は立ち上がって私の前に立った。
部屋の灯りが彼の体に遮られ、暗くなる。襖と彼に挟まれる形になり、携帯を握る手に力が入った。
「な、篝さん」
声が震える。灯りを背にして暗い影を落とす彼の表情から冗談めいた気配が消えた。
「背、高いんだね」
「え、ええ。でもあなたの方が高い」
168センチの香津美より十センチは高そうだ。背比べでもしたいのだろうか。
「あの、かが・・んんん」
不意に唇を重ねられ、驚いて口を開けてしまったらそこに舌がすかさず滑り込んできた。
普通ならキスは目を閉じるものなのだろうが、香津美は思い切り目を見開き至近距離の篝の顔を凝視した。
近すぎるので焦点がうまく合わないが、篝の伏せられた長い睫が見える。肌もきめ細かく、男性と言えど自分より綺麗なくらいだ。こんな人が自分に結婚を迫っている。実質的で色気も何も無い提案だった。
ぱちりと彼も目を見開き、彼女の目を見据えてくる。
瞬きするのも忘れて、見つめ合いながら口づけが続いた。
舌が口腔内を撫で回し、彼女の舌に絡みつく。クチュクチュという音が耳に響いた。
ゴトリと何かが足の甲の上に落ちて、顔を顰めた。
痛いという言葉は口づけに塞がれたが、反射的に足を上げた。
ガッ!
「うっ」
唇が離れ、彼が呻いた。
びっくりして上げた表紙に膝が篝の向こう脛を蹴った。
「す・・」
蹴られた向こう脛をさする彼に思わず謝りかけが、謝るのは彼の方ではないか?
「な、何なんですか、いきなり」
慌てて香津美は篝の体を押すが、彼の体はびくともしない。
「結婚する予定の男女がキスをするのはおかしくないと思うが」
「だ、だからさっきから何度も・・」
「今のキスで何も感じなかったか?」
「え?」
押し退けようとして彼の肩に当てた手を掴まれ、きゅっと握られる。
「キス、少しでもときめいた?」
「そっ!」
そんなわけないと言おうとして一瞬言葉が詰まった。それが答えとばかりに彼が微笑んだ。