甘い災厄




    □

外に出て、歩く。
知らない町並みを眺めながら、少しうきうきした気分になってくる。

道には、種類はわからないけど色とりどりの花が咲いていて、なんだか、心が明るくなるようだった。
「うわー、きれいだね」

「アジサイって毒があるらしいよ」

「今言うことか?」

「毒は薬でもある。
毒っていう物体があるんじゃなくて基本『量』が毒を決めるんだよ。だから、一概に全部否定するのは損なんだ」

「え、人生の話?」

「はぁあ夏々都くんの和風のエプロン姿が見たい……茶屋の娘的な」

「え、いや、あちこちに話飛びすぎだよ」

ぎゅううと抱きつかれて少し、びっくりする。

「町中だけど」
「うん。きみが何を考えてたか、わかるから」
「え」

どこかで、少し早めの風鈴の音が聞こえる。
それから、近くに団子屋があるのだろう。
甘い団子のにおいもする。
「……悲しい?」

「うん」

エリさんと会った頃に食べたカツ丼。
それに。
道の草花を見ると、彼女が最初に笑いかけてきてくれたときを思い出す。何かを見て大事なものを思い出さないなんて、やっぱり無理だ。

エリさんというのは、本名は知らないけど、倒れていたぼくを看病し、まつりの入院する病室まで連れてきてくれた、恩人。
彼女は、心を壊して亡くなってしまった。

「よく、わかんない、けど……」

言葉も通じなかった。
価値観も合わなかった。何一つわからなかった。何一つ合わなかった。
だから、ぼくはいつも、誰とも関わらない。
だって違う生物だから。綺麗事なんかじゃなく。だから。

「嫌いにはなれないんだ」
それでも、まつりやぼくを好きで居てくれた部分が、少しでもあったのなら。








「いっそ、嫌いになれたらいいのに――なんでかな、どんなに酷い言葉を聞いても、何度当たられてもね。

心のどこかで、そんなこと、でき、なくて……」

残酷だな、と思う。
みんなどこか優しさがあって、どこか不器用なだけなんだ。

「はーい」

ぱく、と口に何かくわえてると思ったら、やっぱり団子屋に走ってきたらしいまつりが、ぼくに焼きたての草団子を食べさせていた。

「あ、あっつ……」

「笑って! 夏々都」

「わら、う?」

「まつりたちに、生きてもらいたいというのが、彼女の望みだったのなら、それを叶えていかなくちゃ!」

強い言葉。ぼくにはない覚悟。まつりは笑う。
ぼくの分まで。
こみ上がってくる何かに泣きそうになる。


「先に、辺りを歩いてお土産買おっか!」

「帰りでよくない?」

「お店を見たいのー」

「はいはい……」

まつりに付いて、二人で歩く。ぼくたちは恋人では無い。けど、なんなのだろう。
惹かれたわけじゃなくて自然とそばにあった。
まるで、刷り込みみたいに。

「ああ、新しいフォトフレームとアルバム買おうかなー。夏々都くんのあんな写真やこんな写真を」

「お前は他に飾るものがないのか……」









「ああ、そうだ」

思い出したように振り向き、そいつは鞄から小さな人形を出した。チェーンがつけられている。

「これ……」

ふわふわの茶髪。
青い上着。
可愛らしいデフォルメ。
「夏々都、何がほしいかわかんないけどさ……その。最近頑張ったごほうび」
「手作り?」

「うん……」

まつりのマスコットキーホルダーだ!!
照れて横を向いているそいつと見比べながら、どちらも可愛いと思った。
「い、いいのっ!」

「いいんだよ、きみのために作ったんだから」

「わーい!」

たぶん今日一番の笑顔になったぼくに、まつりが目をぱちくりとさせる。
「鞄につけてこうかなぁ。でも、汚したくないし……ううう、どうしよう」

「きせかえもできるのだ」
ふふん、と笑われて、ぼくはマジで? とテンションが上がる。

「すごく嬉しい。ありがとう!」

「やっと、笑ってくれた」
幸せそうに微笑んだまつりに引き寄せられ、口づけられる。
「ん……」

耳まで熱くなるぼくに、レジから見守っていたらしい店員のおばあさんが「おやおや……」と笑っているのが聞こえてくる。

「ちょ、ちょ、ちょっと!」
背中をばしばし叩くが、そいつが離れてくれない。
「お、おっ、お土産買いに来たんでしょう!」

「ご褒美のご褒美をもらいました」

腰に手を這わせながら満足そうにニヤニヤしている。こいつ……

「ていっ」

軽く頭をチョップしてから、ぼくはそいつから離れる。もう、昨日からあんなにしておいて、まだ何が足りないというんだ。

熱くなる身体を見られないように、奥にあるコーナーに急ぐ。
まつりの好きそうな、かわいい生き物のぬいぐるみや、ポーチなんかが売っていた。

「わぁ……こういうの、喜ぶかな」


まつりが喜んでくれるなら、ぼくも幸せだ。
いつまでもそばに居られたらいいな。
まつりに好きな人ができたりしたら、ぼくはどうなるのだろう。
今まで通り、愛してもらえるんだろうか。
大体、まつりは、ぼくを。
(あれ……今、何を思ったんだ?)

やだ、行かないで、なんて。眠って朝起きたら居なくなっていそうで。

「うわああ!!」

そ、そんなはずはない。ちがう、ちが、わない。わからない。どうしたらまつりはずっと、ぼくを見てくれるんだろう。
ああ、口のなかがあずきの味でいっぱいだ。
ふわふわする。

回転する台に、キーホルダーが沢山かけてあったのが視界に入る。
まつりにもらったものを思い浮かべる。
もう、幸せ……
指先が熱くなってきて、慌ててそちらから顔を背けながら、よく相談に乗ってくれるお姉さん、コウカさんに何か買おうと思った。













「んー、どれがいいかな……」

あの人が何が好きかまるっきりわからない。
まつりみたいな人間が好きだという、変わり者……いや、いい人だからな。ぼくにも、よくアドバイスをしてくれるし、案外面倒見がいい。

まつりがかつて、何かの事件で彼女を助けたというのもあるのかもしれないけど。

「コウカなら、化粧品やアクセの方が喜ぶよ?」

「うわっ」

右横から声が聞こえて飛び退くと、そこにいたのはまつりだった。

「な、なっ、なん……で!」
「分かりやすいんだもの」
両手にいっぱい、まんじゅうやら、酒入りクリームケーキやらを抱えている楽しげなそいつを見ながら、驚きを誤魔化そうと深呼吸する。

「び、びび、びっくりした……」

すー、はー、すー、はー、呼吸を整えていると、まつりがくすくす笑った。
「そんなに驚かなくてもいいのにぃー」
「だ、だだだ、だって」

おろおろしているうちに、そいつはさっさとレジに向かう。合計で三箱くらい買ったらしい。

店から出た途端に酒入りケーキを開封して貪り始めたそいつとともに、歩く。
少しちょうだいといったら、子どもはだめ! と言われてしまった。
なんだか悔しい。
横から取ろうとしてみたけれど、ガードが固い。うぅ……

「夏々都には早いよ」

「まつりが食べてるなら、食べたい……」

「食事に興味を持ってくれるのは嬉しいけどさ」

「だめ?」

じいっと見つめてみる。まつりは少し顔を赤くして、それから、反則……と言った。何が?
ちょっとだけ、ちぎった欠片をもらう。

白っぽいスポンジケーキの中には甘さと、少しほろ苦くて辛いようなものが混ざっていて、不思議な気持ちになる。

「どう?」

「なんか、不思議なあじ。もっとちょうだい」

「だめ」

ぼくだって、あと数年すれば、大人なのに……
なんとなく悔しい。

「拗ねない拗ねない」

「すねてない……!」

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