捨てられた男爵令嬢は騎士を目指す2〜従騎士になったら王子殿下がめちゃくちゃ甘いんですが?
出現
ただ、一点のみに意識を集中する。
「……今だ!」
夜の訓練場にて。疾走する馬上で構えたランスをスピードに乗せ、そのまま穂先を繰り出した。
(……手応え、あり!)
今までで一番確実に人形に当てる感触を感じ、思わず頬が緩んだけど、気を緩めるなとすぐに引き締めた。
「よし、それまで!」
アスター王子の声でアクアの歩度(ほど)を調整し、スピードを緩めて常歩(なみあし)へ。
「……いいだろう。この1年、よく練習を重ねてきた。目を見張る上達ぶりだ。間違いなく優勝してもおかしくはないレベルに来たな」
訓練場で仁王立ちしたアスター王子が珍しくそんなふうに褒めてくださったから、嬉しいというよりなぜか不気味になる。すると、アスター王子から抗議の声が上がった。
「……おい、褒めているのになんだその目は?」
「今までめったになかったのに、今日はそんなに褒めて……なにかよからぬことでも企んでませんか?」
「オレだとて褒めるくらいはするだろう!どれだけ鬼教官扱いだ?」
「馬上槍試合の練習に限っては、限りなく鬼、悪魔、変態でしたから」
「鬼と悪魔はともかく、変態はなんだ?変態は!?」
ぎゃあぎゃあといつもどおりにアホなやり取りをしている間に、頭に被った兜の面頬(めんぼお)を上げてひと息着く。
さすがに6月に全身を覆う鎧であるフルプレートアーマーで動くのは、蒸し暑さが半端ない。中に着た綿の下着もシャツも汗でぐっしょりだ。