ハズレの姫は、獣人王子様から愛されたい〜もしかして、もふもふに触れる私の心の声は聞こえていますか?〜

知らないこと

 シリル様に助けてもらい、食事はなんとか終わった。
 食後に、今マフガルドで人気だという果物が入ったお茶を飲みながら、王子様達と話をした。話と言っても、王子様達の言われる事を聞いて頷くだけだったけど。
 第ハ王子ハリア様の番になり、ハリア様が名前を告げると、王様が「もういいだろう、今夜はコレで終わりにする」と言い、王子様達に先に部屋へ戻るようにと言われた。

「えーっ、何故ですか? 僕名前しか言ってません! もっと話したいです、リフテス王国の事とか、エリザベート様の好きな物とか聞きたいなぁ」

 ハリア様が笑みを浮かべ私を見る。
 その様子に、第二王子マルス様が眉を寄せた。

「……ハリア、リフテス王国の事はわかるが、エリザベート様の好きな物を知ってどうするんだ?」
「……もっと仲良くなろうと思って」

 その答えにシリル様が呟く。

「俺の……相手だ」
「分かってるよ、別に好きな物聞くぐらいいいと思うんだけどな? それにエリザベート様って第七王女でしょう? まだ六人もお姉さんがいるんだよね? 歳は近いの? お姉さん達は似てるの? 僕会って見たいなっ!」

 ハリア様は目を煌めかせている。

「本当に聞きたい事はそれか……」

 マルス様は呆れ顔だ。


「……えっ……と……」

 困ってしまった。六人いる王女様達は、ほとんど外に出られる事は無く、私は見たこともない。
 歳も知らない……私と王女様達は似ているのかしら?
 王様にはこの間会ったけど、王妃様も絵姿でしか見たことがない。

 しかし、何か答えなければ……。

 私が困惑していると、王妃様が「ハリア」と声を落とされた。

「ハリア、その話はまた今度にしなさい。あなた分からないの? 急に呼び出されて、大きな男達に囲まれて、面白くもない話を聞かされて。(王子様達は皆一様に目を見開いた)
それに、初めて会う人と食事をとることはとても疲れるのよ。女性のドレスはコルセットがキツいし、本当に大変なんだから。もう少し相手の気持ちを考えて」

 王妃様に嗜められたハリア様は、分かったと頷くとヒラヒラと手を振る。

「はい、母上。じゃあエリザベート様、また今度教えてね」

 王子様達が先に部屋へ戻ると「後で部屋へ来るように」とシリル様に告げ、王様と王妃様も部屋へと戻られた。



「では、俺達も戻ろう」

 そう言うと、シリル様は当然のように私を抱き抱えた。
 フワリと近くに感じる彼の匂いに、ドキリと胸が跳ねる。

「えっ、どうして?」

 戸惑う私に、彼は視線を合わせると、フッと見惚れるような笑みを浮かべた。

「慣れない高さの靴で歩きにくかっただろう? それともサイズが合ってなかったか、とにかく部屋まで俺が抱えて行く」
「そ、そんなっ、ダメです!」

 恥ずかしいと言う私に、シリル様は悪戯に笑う

「昨日も馬から下ろして、そのまま部屋まで抱えたが?」
「そうですが……」
「もしかして重さを気にしているのか? 大丈夫だ、エリザベートは軽い。ラビーの弟達と変わらない」
「……ラビー様の弟?」

「ああ、メイナードではない。アイツは重い」
「……ふふっ」

 真面目な顔をして言うから、メイナード様を抱き抱え、重そうな顔をするシリル様を想像してしまい、笑ってしまった。

「可笑しかったか?」
「はい」
「そうか」

 少し口角を上げたシリル様は、ラビー様にはメイナード様の他に七人の弟達がいると教えてくれた。
十一歳の双子にハ歳の三つ子、六歳の双子。

「シリル様もラビー様も兄弟が多いんですね」

 何気に言った私に、シリル様は怪訝な顔をする。

「エリザベートも多いだろう? 君は第七王女だし、王子も二人いると聞いている。兄弟は九人もいるじゃないか」

 忘れてた……。

「……そ、そうですね。ふふふ……」
「…………」

 笑って誤魔化したけど、大丈夫だった?



◇



「お食事は如何でしたか?」

 モリーさんはすごく心配そうに聞いてきた。

 気づいていたんだ……私がマナーを知らないこと。

「シリル様が食べさせてくれました。他の王子様達からは白い目で見られちゃいましたけど」

 食べさせてくれたシリル様の顔を思い出し、自然と笑みが溢れた。

「まぁ!」
「それに、ここまで抱き抱えて運んでくれました」
「うふふ、シリル様はそうしたかったのでしょう」
「……そうでしょうか? 私が歩きにくそうだったからと言われましたが」
「まさか! 好きでもない相手に、そんな事はしませんよ。私は分かっております、シリル様はエリザベート様を好きでいらっしゃいます」

「好き? シリル様が私を?」

「はい、私にはそうとしか思えません」
「本当に……?」

 なぜだか急に顔が熱くなった。

 モリーさんは、隠す様に頬を手で押さえる私を、満面の笑みを浮かべて見ている。

「すぐにお風呂に入られますか? 用意は出来ておりますよ」
「はい、入らせていただきます」
「では、その間私は用事を済ませて参りますので、少し部屋を出ます。扉の鍵はしっかりと掛けておきますので、ご安心ください」
「分かりました」


◇


 チャプン……チャプン

 手のひらで掬ったお湯が、指先を伝い落ちていく。
 広がる波紋を見ながら思い出すのは、今夜のシリル様の事。

 マフガルド王国の漆黒の王子様。

 手を差し伸べるシリル様は、キラキラと輝いて見えた。

 怖かったのは最初だけ、優しくかっこいい……私の結婚相手。


『大丈夫だ』

 そう言って優しく微笑むシリル様に、胸の鼓動は高まっていた。

 私へと向けられた、優しく細められた黄金の瞳が忘れられない。

 ……すごく素敵だった。
 あんな風に男の人から優しくされ、見つめられた事は、今まで一度もない。

 ずっと考えてしまっている。

 彼の少し掠れた低く優しい声が耳に残っている。


 モリーさんは、シリル様が私を好きだと言っていた。


 本当に?

 もし、そうだったら……。

 嬉しい。
 すごく嬉しいと思う


 けれど……。




◇


 コンコン、と浴室の扉が叩かれた。

 モリーさんは先程部屋に鍵をかけて出た。
もう帰って来たの?

「はい」

 返事をすると、扉を開け入って来たのは、さっき私を睨みつけていたメイドだった。

「あなたは……」
「私はリフテス王国より遣わされた、あなたの監視役です」

「どうやってこの部屋に入ったの? モリーさんが鍵をかけて行ったはずよ⁈」

 私の言葉が気に入らなかったのか、メイドは態度を悪くする。

「入り口は一つとは限らないでしょう? バカな女ですね。それにお前、仮にもリフテス王国の王女として来ているのに、アレはなに⁈ 歩き方もなっていなければ、マナーもなっていない。
何一つできないなんて……やはりどんなに王と、血の繋がりがあるとはいえ、しょせんは平民の娘でしかないわね」

 監視の女は私を蔑むような目で見る。

「そんな事をわざわざ言いに来たの?」

 私の物言いが気に入らなかったのだろう、耳を掴まれ引っ張られた。痛みに顔を歪めると、女は口角をあげる。

「エリザベート、お前まだ王子と寝ていないでしょう?」
「ね、寝ては」
「交わっていない、と言っているのよ。お前がこの国にきた目的は子供を生み連れ帰ること、それは分かっているの?」
「わ、分かっている……でも、そんな簡単には」
「出来るでしょう? お前の母親のように王子を誘惑すればいいだけ。相手は獣人、その気にさせれば簡単でしょう」
「そんな言い方しないで!」

 母さんにも、シリル様にも失礼な物言いをされて口ごたえをしたが、女は気にも留めず私が知らない話をペラペラとし始めた。

「リフテス王は、すでに側室二人を孕らせている。お前も一日も早く子を作るのね」

「……? リフテス王の子供と私の子供の何が関係あるの?」

 何の事か分からず尋ねた私に、呆れ顔をした女は、ずっと引っ張っていた耳を乱暴に離した。

「まさかそんな事も知らないの?……だったら教えてあげるわ。王様の生まれてくる子供とお前の魔力持ちの子供、その二人を一緒にし、生まれてくる子供こそが次のリフテス王になるのよ、魔力を持つリフテス王の誕生よ」

「えっ……王様の子供と私の子供?」

 リフテス王が、魔力を欲しがっている事は知っていたけど、まさかそんな方法で⁈

「お前の子では王にはなれない。半分平民のお前と獣人との子供など、リフテスの王族とは認められない」

「それなら……最初から、王女様達をこの国に寄越せばよかったじゃない。王女様達なら立派な王族何でしょう⁈ 」

「王女様達に獣人と交わり子供を持たせるなど、穢らわしい真似が出来るわけがないでしょう? だからお前が選ばれたのよ、半分だけ王族の血が混じるお前がね」

「穢らわしいって……」

「早く王子と交わりなさい。一日も早く子を作りリフテスへ帰らなければ、あの女が苦しむだけよ」
「あの女? メリーナの事? 苦しむってどういう事なの? 城で働いてもらうってリフテス王は言っていたのよ?」

 キッと女を睨みつけたが、湯に浸かったままの私は、逆に監視の女から冷たく見下ろされてしまった。

「お前は本当にバカね。そんなの嘘に決まっているでしょ。今、あの女は城の地下牢に入っているわ、陽も当たらない場所だけど、食事はでるから生きているでしょうけど」

「地下牢?」

「お前が子を連れて帰ればあの女も牢から出られる、分かったら早くすることね」
< 14 / 58 >

この作品をシェア

pagetop