ハズレの姫は、獣人王子様から愛されたい〜もしかして、もふもふに触れる私の心の声は聞こえていますか?〜

白い男

 あの光を受けた私の体に、異変が起きてしまった。
 どんなに頑張っても体は言う事を聞かない。
 それに……。


「皆、王妃様に従って」

 口からは言いたくもない言葉が勝手に出ていく。

 いつもより低い声で話す私に「リラ」とメリーナが名前を呼んだ。

 私は笑いたくもないのに笑顔になる。

「私、分かったの」
「何を? 何が分かったの?」

 メリーナは不思議そうに聞いてくる。

「獣人はやっぱり危険だって事」

(………⁈ …………違うっ)


「どうしたの? リラ」

 メリーナが『私』に目を合わせ、何かを探る様に見る。


 伝えたい。
 思いもしない言葉が勝手に口から出て行くと、それに体の自由も効かないのだと。

 分かっているのに、どうにもできない。



「だって、悪いのは私達よ? 夜中に城に入りこんで、リフテス人には使えない魔法を使って兵達を縛り付けるなんて、卑怯者のする事だわ」

『私』は、ジョゼフィーヌ王妃の方へ顔を向け微笑む。

「そうですよね? お美しいジョゼフィーヌ王妃様」

 王妃は満足気にほくそ笑み、大きく頷いた。

「母親が平民とはいえ、さすがはリフテス王女だ。よく分かっているではないか『エリザベート』」


 すると『私』の口は、また勝手に話をする。

「野蛮な獣人達め、お前達の住むマフガルド王国も要らぬ国だ」

「ふふふ……エリザベート、それは少し言い過ぎというものだ。そこには、マフガルド王国の王子もいるのだぞ?」

『私』の話す言葉に、王妃は笑みを浮かべる。

「王子様? あれがか? 獣と同じ耳に尾まで持つ者が?」

 吐き捨てる様に話す『私』。


 ラビー姉様が悲しそうな顔で、暴言を吐く私を見ている。

(…………違うの……違うのに……)


「ちょっと待て、リラ」
 シリル様が声をかけ、私に手を伸ばす。

「おぞましい獣の分際で、私に触るな!」

 睨みつける『私』に、シリル様も悲しそうな顔になり、差し出そうとしていた手を下ろした。

「リラ……」
 シュンと折れた獣耳と下がった尻尾。

(違う、違うの……触るななんて本当は思ってない。シリル様……)


 心が千切れそう。
 シリル様に、皆にあんな顔をさせてしまっている。
 それなのに『私』からはまた思ってもいない言葉が出て行く。

「私はエリザベートだ。そんな名ではない」

(……もう、自分が嫌……)

『私』は皆を見回す。

 シリル様は私を見つめ、ラビー姉様とメイナード様は『私』から目を逸らした。
 ルシファ様はラビー姉様を心配そうに見ている。


 それらを確認した『私』の視線は部屋の扉のすぐ側に立つ男に向いた。

(……いつからあの男は居たの?)

 白い法衣のような衣装を着た背の高い男は、薄ら笑いを浮かべ此方を見ている。

 その男は、髪も肌も目の色までも白かった。けれど、その白さは第五王子デュオ様の様な美しい純白ではなく、色の抜け落ちた様な、艶のない死んだ様な白だ。

 きっとあの男が『クラッシュ』の『神』と呼ばれる人物だ、私はそう思った。

 そして……私はいつのまにか、あの男に言動を操られているのだと気が付いた。

「リラ、何かされたのね」

 探る様に見ていたメリーナは、私が操られている事に気づいたようで、解除を試みようとしたのだろう、体に触れる為に手を伸ばした。

 手が『私』に触れるその瞬間、バチッ! と音を立てメリーナへ光が走る。

「痛っ……これはシリルの防御魔法……でも組み直されている」

 メリーナはシリル様を見る。

「シリルあなた、リラに防御魔法をかけていたでしょう?」
「はい」
「それを上手く利用されたわ……そこにいる男に」

 シリル様がメリーナの指差す方を見ると、ラビー姉様、メイナード様、ルシファ様が空中に浮き上げられた。

「うわぁっ!」
「…………!」

 三人を浮き上がらせているのは、扉の前に立つ白い男だった。
 男は、怯えるラビー姉様の様子を見てククッと笑みを浮かべると目を移し、今度はシリル様を見て目を細めた。

「……これは珍しい、漆黒の毛を持つ者だ」

「お前『クラッシュ』の『神』と呼ばれる男か?」

 シリル様が白い男を睨み話した。

「そうだな、彼らは私をそう呼んでいる」

 白い男はそう言うと手をゆっくり動かし、空中に浮かべた三人を上下に動かし出した。

「ヤダっ! 気持ち悪いっ!」
 ラビー姉様は手で顔を覆っている。

 その様子を、ジョゼフィーヌ王妃は愉しげにみる。
 ふふと笑いながら、ラビー姉様、ルシファ様、それからメイナード様に目を留めると、ニヤリと笑い指を差した。

「神王様、そこの金色のウサギは私がもらいます」

 目を細めメイナード様を見る王妃。

 王妃に目を付けられたメイナード様は、両腕を抱きプルプルと震えている。

『神王様』と呼ばれたその男は「好きにしろ」と表情なく言うと、三人の動きを止め下ろした。

 気に入った物が手に入ると分かった王妃は、途端に上機嫌になり、次にリラに判断を仰ぐ。

「後の二人はどうする? エリザベート」

(……どうする? どうするって何?)

「要らないわ、始末して」

 恐ろしい言葉が口から出て行く。

(どうして……)

 王妃は満足気に微笑みを浮かべた。

「そうだな、エリザベートがそう言うのならば仕方がない。始末してやろう」


「リラにそんな言葉を言わせないで! それに、私の甥をあなたにあげるわけにはいかないわ」

 メリーナは指をクイッと動かして、ルシファ様をパッと転移させ、すぐにメイナード様を転移させた。

「ラビー、私達は大丈夫。必ず戻るから、帰り支度をしておきなさい」

 そう言って、ラビー姉様も転移させる。

「この女……よくも私のウサギを! そういえば、どうしてお前は拘束されない? そこの黒い獣も、神王様、何故ですか?」

 王妃に尋ねられた白い男は、メリーナをチラリと見ると目を弓のようにした。

「……その女は獣人だ。その上なぜか私の魔法が効かない」

 その言葉に、王妃は訝しむ。

「えっ? 獣人? どう見ても平凡な中年女だ」

 さっきからメリーナが魔法を使っている事を、どうやら分かっていない王妃は首を傾げている。

「平凡な女で悪かったわね、年増の淫婦のくせに」
「ーーーー何だと‼︎」

 王妃とメリーナが組み合って争いを始めてしまった。
 白い男は楽しげに、二人の様子を見ている。


 その隙に、シリル様が私の側へ近づいて来た。
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