やり手CEOはお堅い秘書を手放さない
「よし、記憶をなくしたことと、黙って逃げたことは許そう。その代わり、俺は昨夜のことを忘れないし、きみの辞職も許さない。だからきみは今まで通り俺のそばにいてくれ。手放すつもりはないんだ」
「……承知しました。信頼回復のためにも、今まで以上に尽くします」
重ねられていた手の温かみが離れていく。追求から解放された安堵と戸惑いを覚えつつ退室した。
静かにドアを閉めて、胸をぎゅっと抑える。不本意にもドキドキしていた。
〝手放すつもりはない〟なんて、勘違いしそうになる言葉なのだ。
これは優秀な秘書に対しての言葉だ。深く考えたらいけない。
だって社長には縁談があるのだから。
一年くらい前から女性たちの誘いを断っているし、それまでに付き合いのあった女性たちとの食事デートもしなくなっている。
それは結婚に向けて本気で動いているということだ。
だからこそ、私との一夜は酔った勢いであり、気の迷いでしかない。
いつも身近にいる秘書だから、過ちを犯しても空気を読んでその先を要求しないでくれると、考えたかもしれない。
でも、ほんとうにそうなのかな……?
だめだ、一縷の望みを持ってはいけない。