やり手CEOはお堅い秘書を手放さない
『社長が動くことで、結果的に幸せになる人が増えると思います。迷いなく進んでください。ほかの人はともかく、私は社長を信じていますし、どこまでもついていきますから』
私の言葉で、彼はかすかに微笑んだ。
一点の迷いもなく精力的に仕事をし、飛ぶ鳥を落とす勢いと言われる彼が、秘書の私だけに見せる唯一の弱い部分。
ときに非情とならねばならない彼の心に寄り添いたいと、一生彼の秘書であり続けたいと思った。
でも私の気持ちなんて、大企業の社長令嬢との縁談がある彼にとっては邪魔でしかない。テーブルウェアの全国シェア一位のマクレガーと縁を結ぶのは、食品を扱うわが社にとって強みとなるだろう。
新しい事業も生まれるかもしれない。彼がそのチャンスを逃すはずがないのだ。
私との一夜の過ちは、社長にとって汚点でしかない。
彼との行為の記憶がないのは幸いしている。もしも覚えていたら、きっとつらくて仕方がないから……。
「さあ、仕事、仕事!」
気分を入れ替えるために、ぱんと頬をたたいた。
社長室のドアをノックする前、ピシッと背筋を伸ばす。個人的な感情は捨てて、秘書の業務に専念する時間だ。