やり手CEOはお堅い秘書を手放さない
パーティ会場に入ってからずっと表情を変えずにいた彼は、目で合図をして出口に向かっていく。
人を寄せ付けないように速足で歩く彼の後を懸命に追いかけた。
「社長、もう帰るんですか? まだパーティは終わってません」
「いいんだ。今日の目的は果たしたから」
社長にそう言われれば、秘書の私は従うしかない。
今はまだ午後4時にもなっていない。このまま社に帰れば明日の仕事を前倒しにして済ませることができる。これはラッキーだと思おう。
予定よりも早い帰りだと、少々驚いた顔を見せた運転手の車に乗った。
車の中でスマホを手にした彼がどこかに電話をかけ、「例の件、必ず進めてください」と話しているのを静かに聞いていた。
社に戻り、社長と一緒にエレベーターで上階まで上がってそのまま秘書室に向かう私を彼が呼び止めた。
「このあと……いや、定時になったら社長室に来てくれ」
「はい? 了解しました」
社長室に消える彼を後ろにして廊下を歩く私の前方に、清掃員の酒井さんがいるのが見える。
彼女は絨毯敷の廊下に掃除機をかけたあとのようで、器具をもってこちらに向かってきた。その顔がぱあっと華やいだ笑顔になる。
「あら、瑠伽ちゃん! 会えてよかった! あなたに話があるのよ! 今少しだけいい?」