やり手CEOはお堅い秘書を手放さない
「何言ってるんだ。きみは助手席だ」
素直に乗れと命じられれば、拒否することはできない。
「それじゃ、失礼します」
ふかふかのシート、高級感のあるインパネ、運転席に座ってハンドルを握った彼の凛々しい横顔。すべてが初の経験で、緊張してしまってやたらと胸が高鳴ってきた。
どこに出かけるのかな……。
駐車場から地上に出ると、外はもうすっかり暗くなっていた。
「あの、どこに行くんですか?」
「ちょっと遠出するんだ」
「えっ? もしかして、今日話してくれた新しい試みに関係します?」
「きみは主に鈍感だけど、たまに鋭い」
くすっと笑う彼は、普段と違う空気をまとっている気がする。視察や接待などの仕事ではないように思える。
「鈍感ですか? 敏感なほうだと思いますけど。ちゃんと秘書の仕事ができてますし」
「秘書として……きみを抜擢したのは正解だったと思ってる」
私を秘書に抜擢したのは、社長就任をきっかけに秘書室を刷新しようと考えていたとき、入社式で新入社員代表のスピーチをした姿が目に留まったからだ。意欲に満ちた目と物おじしない堂々とした態度が気に入ったのと、なにより秘書検定準1級を持っていたのが決め手だったと彼から聞いている。
社長秘書に決まったと聞かされた時には驚いたけれど、期待に応えるためにもより一層の努力をしようと決心していた。
「きみの仕事ぶりには、いつも感謝してるよ。取引メーカーに評判がいいこと、きみは知らないだろう」
「え、そうなんですか?」
余裕そうに片手でハンドルを操作する彼に密かにときめきつつ、日ごろの取引メーカーの態度を思い出していた。