やり手CEOはお堅い秘書を手放さない


「ではこちらにお着換えください。新藤さまがお選びになったんですよ」

「え……?」

 桐谷が持っているのは、藤の花を思わせるような色合いで、胸元に施されたレース飾りが上品なワンピースだった。

 見るからに高額そうなので私が着てもいいのか迷う。

「さあ急ぎましょう。新藤さまがお待ちですよ」

 桐谷はにこやかだけれど問答無用な圧がすごい。これに着替えるのは、決定事項で覆せそうにないみたいだ。

 朝からずっと着ていたスーツを脱ぎ、ワンピースに袖を通す。ふわふわと柔らかく軽やかな布地が体を包み、心までも軽くなった気がした。

「まあ、ぴったり! やっぱりお似合いですね! つぎはメイクをしますので、ドレッサーの前にどうぞ」

 まとめていた髪が解かれて、肩にぱさりと落ちる。少し癖のついた髪を桐谷は手際よくセットしなおし、上品なメイクを施してくれた。

 鏡の中には、可憐な女性に大変身した私がいる。

 まさかこんなに女らしく、きれいになれるなんて……。

「とても素敵ですよ。では、彼のもとに行きましょう」

 鏡越しにニコッと笑う桐谷にうなずきを返し、ドアの向こうで待つ彼のもとに向かった。

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