【コミカライズ決定】婚約者の浮気相手が子を授かったので
 次の日――。
 ファンヌは、邪魔になる髪の毛を少し高い位置で一つに結わえ、シャツにトラウザーズといういつもの姿で、懐かしい学校を訪れていた。
 真っ白い外壁に青い屋根の四階建て。建物の中心は一際高く、時計がついている。学生や教師からは時計台と呼ばれている部分だ。
 ファンヌの目的地は、その時計台よりも東側の三階にあるエルランドの研究室。学校に通っていた頃、ファンヌが所属していた研究室でもある。学校の入り口にある事務所に顔を出し、エルランドに会いに来たことを伝えると、事務員は快くファンヌに入校許可証を手渡した。
「久しぶりですね、ファンヌさん。今日はどうされたのですか?」
「エルランド先生に会いに来たのです。ちょっと『研究』のことで相談があって」
「キュロ教授でしたら、この時間は研究室の方にいらっしゃいますよ。ファンヌさんのお茶、評判が良いですよね。私も毎日飲んでますよ。あ、ファンヌさんではなく、ファンヌ様とお呼びすべきですね」
「やめてください。本当に、そういうんじゃないんで」
 ファンヌは顔の前で両方の手を広げてひらひらと振った。この事務員とは学校に通っている時からの顔馴染であるため、このように砕けた口調で話してくれるのと、冗談が通じるところが良い。
 ファンヌが事務員に向かってペコリと頭を下げると、彼女は手を振って見送ってくれた。
 懐かしい校舎に足を踏み入れると、独特の香りが鼻についた。時計台よりも東側の建物は、主に『調薬』や『調香』を専門とする研究室があるため、西側よりも匂いが強いのだ。だが、それすらファンヌにとっては懐かしいものであった。
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