【コミカライズ決定】婚約者の浮気相手が子を授かったので
 歩くたびにギシッと軋む廊下も、年代を感じさせるもの。各階を繋ぐ折り返しの階段をゆっくりと上がっても、ギシギシと軋んだ音がする。この階段を上るたびに、エルランドが「東には予算が無いから、階段も直してくれない」とぼやいていたことを思い出す。
 三階に上がり、階段から三つ目の扉。それがエルランドの研究室である。
 扉を叩くと中からすぐに返事があった。
「はい。開いてるよ」
 つまり、鍵はかかっていないから自分で扉を開けて中に入ってきなさい、と言っている。
「お久しぶりです、エルランド先生」
 扉を開け、ファンヌがそう口にすると、黒髪の前髪が鬱陶(うっとう)しい青年――エルランドが、銀ぶち眼鏡の下にある細い碧眼を一生懸命大きく開こうとしていた。
「ファンヌ、か?」
「はい。ファンヌ・オグレンです」
 自席で何やら調合をしていたようだ。仄かに匂う薬草の独特の香り。この香りから察するに、体力強化剤辺りを調合していたのだろう。
「体力強化剤、ですか?」
 ファンヌが尋ねると、エルランドは喜悦の色を浮かべる。
「さすがファンヌだな。もしかして、香りだけで判断したのか?」
「はい。少し刺激するような香りが特徴的ですから。これを茶葉と組み合わせれば、眠気も吹っ飛んで、集中力も高まるようなお茶ができるかも……」
< 17 / 269 >

この作品をシェア

pagetop