【コミカライズ決定】婚約者の浮気相手が子を授かったので
「マルクスの野郎に会いに来た」
 エルランドはマルクスに向かってだけは相変わらずの口調であった。
「パイヤル教授とのお約束ですよね。お聞きしております」
 マルクス・パイヤル。ファンヌも忘れていたが、それがマルクスのフルネームであった。それもエルランドがすぐに「マルクス、マルクス」と口にしているからだ。
「研究室にいらっしゃいます」
 許可証を受け取った二人は、真っ白い外壁に青い屋根の四階建ての建物の東側へと向かう。
『調薬』や『調香』の研究を行っている東側の独特の匂いがツンを鼻につく。慣れない者にとっては顔をしかめたくなるような匂いであるが、ファンヌにとっては心が震えるような匂いであった。
「なんだ、この階段。直ってるじゃないか」
 ギシギシと歩くたびに軋んだ音を立てていた階段が、新しくなっていた。木目がむき出しの年代を感じさせる階段であったのに、軋まないだけでなく、サーモンピンクのお洒落な色まで塗られていた。
「東には予算が無いはずなのに」
「てことは、予算がついたんですね」
 ファンヌがそう言うと、エルランドは面白くなさそうに、フンと鼻から息を吐いた。
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