婚約者の浮気相手が子を授かったので
「マルクスには、三日ほど調べものをしたいと伝えてあるから。今日はもう帰ろう」
 そろそろ屋敷の老夫婦に伝えた帰り時間になる。あまり遅くなれば、彼らも心配をするだろう。
 それに、いくら屋敷は学校からすぐの場所にあるとしても、暗くなる前には帰りたいものだ。例え、エルランドが隣にいたとしても。
 図書館の受付には明日も来ることを伝え、書庫の鍵を返して外に出た。帰る前にマルクスに挨拶をしようと思い、彼の研究室を訪れると、どうやら来客中のようだった。それでも研究室の中からマルクスが出てきてくれたので、今日の礼と明日もくることを伝える。
「悪いな、廊下で。そうだ、五日後に王宮で研究発表をするんだ。もしよかったら、聞きに来ないか? 今、ちょうどその打ち合わせをしていたところなんだ」
 来客の相手が例の共同研究者なのだろう。
 エルランドはマルクスから一枚の紙きれを受け取った。
 そこに並んでいる名前を見て、「ほう」と唸る。
「これは、非常に興味深い顔ぶれだな」
「そうだろう? 君ならそう言うと思ったんだ。じゃ、明日も待ってるからな。気をつけて帰れよ」
 ファンヌは手を上げるマルクスに頭を下げた。だが、その彼の笑みが歪んでいることなど、知るはずもない。もちろん、エルランドもそれには気づいていない。
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