婚約者の浮気相手が子を授かったので
 理由は明確である。それにファンヌも気付いた。
 彼女がエルランドの『番』だからだ。彼女に嫌われたくないという気持ちが、彼をそうさせているのだろう。
 だけど、ファンヌはエルランドのその気持ちを利用するつもりは無かった。今までと同じように接しているつもりだし、これからもそうするつもりであった。
「まぁ。仲が良いみたいで、嬉しいわ」
 目の前の王妃が、ころころと陽だまりのように笑っていた。

 王宮からの帰り道。ファンヌはエルランドと肩を並べて歩いていた。エルランドがファンヌの歩調に合わせているのだ。太陽は西に傾いていて、二人の影を長く作り出していた。思っていたよりあそこに長居してしまった。
「その……。すまなかった。黙っていて」
 エルランドが口にした謝罪は、『番』のことだろう。
「誰だって言いにくいことはありますから」
 それはファンヌが身をもって知ったこと。クラウスと婚約が決まり、言いたい言葉を何度飲み込んだことか。
「ですが。もしかしたら、私は先生の気持ちに答えることができないかもしれません。今はまだ……」
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