婚約者の浮気相手が子を授かったので
「父さん。『製茶』の工場まで考えているのは、どういうことですか?」
 ハンネスが尋ねた。『調茶』を専門とするファンヌがいない今、わざわざ領地で『製茶』を行う工場を準備する必要がわからない。
「まあ、ファンヌがあっちに行ってしまったからな。『製茶』に携わっていた者たちは、恐らく領地で受け入れることになるだろうな、と思っただけだ」
「ですが。『製茶』の工場は王宮にもあるじゃないですか」
「だから、だ。あそこで工場がうまくいっていたのも、全てはファンヌのおかげだ。それにすら気づかずに、浮気をして子を孕ませたあの(クソ)王太子には、少し痛い目に合ってもらう必要がある」
 ヘンリッキの心の声が漏れている。不敬罪と言われてもおかしくないような言葉が、ヒルマにもハンネスにも聞こえたような気がした。
 だがヘンリッキの言葉には一理ある。『製茶』は立ち仕事であるため、身体を酷使する。それを知って、あそこで働いていた者たちを労っていたのがファンヌなのだ。自身も『調茶』をすることから、その仕事の大変さを知っていたのだろう。
「ただ、ファンヌが言うには『製茶』はなかなか大変な仕事です。ですから、本人たちの希望を聞いて決めましょう。それよりも、茶葉摘みの人材を確保したほうがいいのではないでしょうか? あとは、薬草摘みですね」
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