婚約者の浮気相手が子を授かったので
 ハンネスの言葉にヒルマが答える。
「薬草の方はね、エルさんから送ってもらうことになっているから大丈夫なのよ。ハンネスの言う通り、茶葉摘みの人材を揃えた方がいいかもしれないわね。きっと、あの()。こっちの茶葉が恋しくなると思うのよね」
 エルランドの名前が出たところで、ヘンリッキとハンネスはヒルマに視線を向けた。だが、ヒルマは気にしていない。こういうところは、母娘(おやこ)そっくりだということにもヒルマは気づいていない。
 ヒルマはエルランドから預かった魔法陣の写しを書いた紙を、ヘンリッキとハンネスに手渡した。
「実は、こういうものまで準備してもらったの。私の魔力では無理だけれど、あなたたちならできるわよね」
「これは……。転移魔法の魔法陣の応用系。さすがキュロ教授だ。これがあれば、転移魔法が使えない者であっても、こちらとあちらの物のやり取りが簡単にできる。まあ、それなりに魔力を必要とするが」
「ああ、でしたら父さん。そういった物の移動を専門に行う人も雇ったらいかがでしょう。少し他の者より魔力を多く備えている者で」
「なるほど」
 結局話し合いの結果、王都からオグレン領に来ることを望む者には、茶葉の栽培と茶摘みとその加工、薬草の選別や調薬の補佐、そして物品を移動させることを仕事として与えることにした。
< 96 / 269 >

この作品をシェア

pagetop