ビター・マリッジ
「四ノ宮さんて、結婚してからも名字は旧姓のままで働いてるし、普段から全然結婚してる雰囲気出してないけど、旦那さんと仲良いんだね」
仲は、良くないんだよね……
小山くんの何気ない言葉が胸に刺さる。
「ほんとに、そんなんじゃないから」
自嘲気味に、今度は本気で謙遜したら、笑顔の小山くんに軽く肩を叩かれた。
「いいじゃん、旦那さんとのランチデート。楽しんできなよ」
「え、うん……」
ランチデート、か。幸人さんからの初めての誘いに舞い上がってしまっていたけれど、よく考えてみたら、家でふたりで食事をしていてもほとんど会話がない私たち。それが、外で食事をしたところで盛り上がるんだろうか……
レストランのテーブル席で向かい合い、お互いに黙々と料理を食べる――、そんな光景が容易に想像できてしまった。
でも、誘ってくれたのは幸人さんだ。今回ばかりは、期待してもいいのかもしれない。
淡い期待と少しの不安。その両方を胸に抱えながら、私は幸人さんのオフィスへと出発した。