ビター・マリッジ

幸人さんのオフィスの場所は、私のオフィスから徒歩十分の距離にある。地図上では把握しているが、実際に出向くのは今日が初めてだ。

菅原工業の自社ビルは、黒っぽいガラス張りの建物で、高層ビルの立ち並ぶオフィス街の中でも一際目立つ。

ちょうど昼休みの時間帯だということもあって、オフィスからの人の出入りも多かった。

菅原工業の社員証をさげた人たちに混ざってオフィスの入り口を通ると、私はまず受付に向かった。


「こんにちは。あの、副社長の菅原を呼んでいただくことはできますか?」

「失礼ですが、お名前は? どのようなご用件でしょうか?」

受付の女性のうちの一人に声をかけると、彼女が口元に笑みを浮かべながらも眼光の奥を鋭く光らせた。

突然副社長の名前を出した私のことを不審に思われたのかもしれない。焦った私は、持っていた自分の名刺を受付の女性に差し出した。


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