ビター・マリッジ
USBメモリを渡したあとは、そのままどこかへ食事に出るこになるはず。それなのに、たった十分待つためだけに社内に通してもらうのも気が引ける。
ちらっと後ろを振り向くと、ロビーに来客用の待合席が設置されているのが見えた。
「あの、あそこで待っていても構いませんか?」
ロビーにいれば、オフィスに戻ってきた幸人さんにも気付いてもらいやすいかもしれない。
来客用の待ち合い席を指さすと、受付の女性が笑顔で頷いてくれた。
「もちろん、大丈夫です。副社長が戻り次第、お声かけさせていただきますね」
「ありがとうございます」
私は彼女に頭をさげると、ロビーの椅子に座った。
あまり周囲をじろじろ見ているわけにもいかないので、時間潰しのためにカバンからスマホを取り出す。
SNSを覗いてみたり、ネットのニュースを開いたりしながらも、画面の一番上に小さく表示された時間ばかりが気になってしまう。
たった十分。普段ならすぐに過ぎてしまう一分が亀の歩みほどに遅く感じた。