ビター・マリッジ
ドキドキしながらほとんどうわの空でネットニュースの情報を読み流していると、私のそばを女子社員たちが通り過ぎて行った。
「副社長にロビーで会えるなんて、珍しいよね」
「私、社内で見かけたのひさしぶりかも」
幸人さん、戻ってきたんだ……
偶然にも、彼女たちがこそこそと噂する声が聞こえてきて、思わずスマホを落としそうになる。
自分の夫に会いにきて動揺するのもおかしな話だ。
ドキドキしながら椅子から立ち上がると、受付のほうに向かって歩いてくる幸人さんの姿が見えた。
幸人さんの格好は今朝家で見たときと同じはずなのに、場所がオフィスだからか、スーツ姿が倍増しでかっこよく見える。
颯爽と歩く幸人さんの姿を見つめていると、隣を歩いていたベージュのスーツを着た綺麗な女性が、横から彼に資料を差し出した。
歩きながらそれを受け取った幸人さんが、唇に綺麗な弧を描くようにして微笑む。それに対して、彼女も幸人さんに親しげに笑い返していた。
それだけでもドクンと胸が騒ついたのに、資料を手にした幸人さんが、柔らかな表情を浮かべて彼女と談笑し始めたから、私は息をするのも忘れてその場に凍りついてしまった。