ビター・マリッジ


幸人さんの隣にいるあの綺麗な女性は誰なんだろう。

仕事で関わりがある人か、秘書なのだろうけど……

遠目に見てもよくわかるくらい、幸人さんと彼女は親しげで、関係も良好そうだ。妻である私なんかよりもずっと。

幸人さんが今彼女に見せているような綺麗な笑顔や柔らかな眼差しには、私にも少しだけ覚えがある。

まだ幸人さんが姉の婚約者だったとき、親族の顔合わせで幸人さんが姉に見せていた表情。それが、幸人さんが隣を歩いている女性に見せている表情と同じだ。

思わず目を惹くような綺麗な笑顔、優しい眼差し。妻である私は、幸人さんからそのどちらか一方ですら向けられたことがない。

ズキズキと痛む胸に手をあてて立ち尽くしていると、受付の女性が立ち上がって私に近付いてきた。


「奥様、お待たせ致しました。副社長は一度社内に戻ったあと、すぐにこちらに降りてくるそうです。もうしばらくこちらでお待ちいただくようにと――」
「すみません。主人が降りてきたら、これを渡していただけますか?」

カバンの中から取り出したUSBメモリをやや乱暴に突き出すと、受付の女性が僅かに目を見開いた。


「奥様?」

「すみません。ちょっと急用ですぐに仕事に戻らなければいけなくなってしまったので。これを渡して、そう伝えてください」

「でも……」

戸惑っている様子の彼女に、強引にUSBメモリを押し付ける。


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