ビター・マリッジ
うつむいて立っていると、幸人さんがスーツのジャケットを脱いでソファーに置きながら振り向いた。
「もう寝るところだったんだろ。先に休んでていい」
「夕食は?」
「あぁ、連絡せずに遅くなって悪い」
その言い方で、幸人さんがもうどこかで食事を済ませているのだとわかった。
「どこかでもう食べてますよね」
自嘲気味に笑って、食卓に向かう。温めれば食べられるように用意していた夕食を片付けようとすると、幸人さんが私の手を止めた。
「いや。家で食べようと思って、外では軽く飲むだけにした」
連絡せずに遅くなったことを気にしているのか、幸人さんが形式上は私を気遣うような言葉をかけてくれる。
私の手の上に重なる幸人さんの手の冷たさが、私の心を冷やしていった。
「別に無理に食べなくても大丈夫ですよ。たいした料理じゃないですから」
幸人さんが行く店は、高級レストランがほとんどだ。
私が作ったものよりも、外で食べるもののほうが美味しいに決まってる。
卑屈な気持ちで夕食の皿をさげようとしたら、幸人さんが私の手に重ねていた手をぎゅっと握った。