ビター・マリッジ
「寝たフリが下手だな」
ふっと笑う声がして、背中から回された幸人さんの両腕が私のお腹の前で交差する。
ドキッとして振り向くと、幸人さんと唇同士が触れ合いそうになって焦った。
「な、何ですか?」
「特に意味はない」
「そう、ですか……」
いきなり背中から抱きしめておいて、特に意味がないとか、訳がわからない。
何をするわけでもなく私の背中にくっついたままでいる幸人さんに戸惑っていると、彼が私の耳元に唇を寄せてきた。
「今夜は誘ってこないんだな。そろそろじゃないのか?」
吐息とともに囁かれた言葉に、動揺と焦りでドキリとした。
後継者を作るために行う、月一回の決め事のタイミング。私が何も言わなければ気付かれないと思っていたのに、まさか幸人さんに把握されていたとは思わなかった。
「今日は、まだです」
幸人さんのほうに向き直って、彼の胸を押し退ける。
彼のことを冷たく突き放したけれど、「まだ」だと拒否した私の言葉は嘘だった。