ビター・マリッジ
月に一回の決め事。

幸人さんと結婚してからずっと欠かさなかったその行為を、嘘で拒否するのは今夜が初めてだ。

その原因は、ベッドの向こうの壁にかけられた幸人さんのジャケットにある。

帰宅後に幸人さんから預かったジャケット。そこから、花のような香水の匂いが漂ってきたせいだ。

今夜の幸人さんは、家に帰る前にあの香りを腕に抱いていたかもしれない。

そう思ったら、たとえ義務でも彼を誘うことなんてできなかった。

私の顔や身体は、あの綺麗な女性に比べて確実に劣る。


「そのときに、またお声かけしますから」

幸人さんの顔や壁にかかったジャケットが視界に入らないように、彼に背を向けて目を閉じる。


「おやすみなさい」

無感情にそう言ったら、幸人さんが私の頭に手をのせて、後ろ髪を撫でてきた。


「そのときって?」

背中から聞こえてきた幸人さんの声にドキリとする。

それが単なる好奇心から出た質問なのか、それとも私の嘘がバレているのか。

彼の無感情な声音からは判断できない。

もし嘘だとバレたら、幸人さんはどう思うだろう。もともと薄かった私への関心が、さらに失われてしまうだろうか。

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