ビター・マリッジ

無言で背を向け続けていると、幸人さんが私の髪を撫でながら身を寄せてきた。

月に一回の決め事のとき以外は私に触れようとしない幸人さんが、こんなふうに自ら距離を詰めてくるのは珍しい。

いったい、何の気まぐれなんだろう。幸人さんがなかなか背中から離れていかないせいで、緊張感が高まる。

ドキドキしすぎて、背中からでも心臓の音が伝わってしまうかもしれない。

胸の前で両手を握り合わせて幸人さんの気配を窺っていると、彼が私の耳元に顔を近づけてきた。


「最近は帰りが遅い日も多いみたいだが、男とでも会ってるのか?」

唐突にそう訊ねてきた幸人さんの声は平静で、そこには嫉妬の色も焦りもない。

だけど私のほうは、幸人さんの言葉を聞いて冷静ではいられなかった。

喉の奥がカーッと熱くなるのを感じて、勢い任せに幸人さんを振り返る。

けれど幸人さんは、眉を吊り上げて険しい顔をした私を見ても、瞬きすらしなかった。

まるで何事もなかったみたいに私を見てくる幸人さんの表情に納得がいかない。

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