Macaron Marriage

2 強引な帰国

 その電話があったのはニ週間ほど前のことだった。

「ママが倒れたんだ……検査の結果……もう長くないかもしれない……」

 父親の泣きそうな声が嘘をついているとは思えず、萌音は慌てて帰国を決意したのだ。

 フランスに渡って四年。萌音は大学の教授の紹介で働き始めたウエディングドレスの工房で様々な技術をえ学んできた。そこでは古いドレスをリメイクする部署もあり、萌音はセミオーダーとリメイクを主に担当していた。

 そろそろ独立を考え始めていた時に、タイミングよく父親からの電話が入ったのだ。

 日本に戻るということは、もうここには戻って来られないかもしれない。まだ学びたいという気持ちはある。だけどこの先やりたいことは日本でも出来るはず……ただそれをパパや婚約者が許してくれるかはわからないけど……。

 萌音はルームシェアをしていた友人と、働いていた工房の社長に日本に戻ることを告げ、荷物をまとめ始めた。

 片付けをしていた時、机の引き出しから出てきた小さな包みを取り出してそっと抱きしめる。

 これは店長へのお土産。店長がくれたブローチを毎日付け、勇気をもらっていた。店長にお礼がしたくて蚤の市に足を運んで探し歩き、そして見つけたのがこれだった。

 私を導いてくれた優しい店長。喜んでくれるかな……。まだあのカフェにいるだろうか……もしいなかったらどうしよう……。そうしたら店長を探すアテなんかない。もう会えないのかもしれない……そう思うと少し悲しくなる。

 萌音は一抹の不安を覚えながら、包みをカバンの中にそっとしまうのだった。
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