Macaron Marriage
* * * *

 萌音は家に帰るなり、予想だにしない光景を目にして卒倒しかける。もう長くないと言われていたはずの母が、どう見ても健康そのものの肌艶と顔色で萌音を迎えたのだ。

「おかえりなさ〜い! もうこの子ったら四年も家を空けて! どれだけ親不孝なの」
「ちょ、ちょっと待って……だってママ……もう長くないって……」

 すると父親がニヤニヤしながら母親の背後から現れる。

「あぁ、それはだな、検査の結果、《《なんの異常もない》》から、《《入院期間》》は長くないっていうことだよ」
「だ、騙したのね!」
「人聞きの悪い。ちょっと言葉を省いただけじゃないか」
「同じでしょ⁈ 信じられない……!」

 大声を出した萌音を父親は真っ直ぐ見据える。

「だが最初に私たちを騙したのは萌音の方だろう? あの日、私たちがどんな気持ちだったかお前にわかるか?」
「あら、それは違うわ。私に内緒で結婚式の計画を立てていたんでしょう? 知ってるんだから。それに一番最初に私に何も言わずに婚約を成立させたのもパパよ。私はいうことを聞いただけだもの」

 萌音は肩を震わせ、涙を零しながら怒りのまま話し続ける。

「もう私を縛らないで。私は私なの。やりたいことをさせてよ……」

 その様子を見ていた父親は、ふうっと息を吐いた。

「この四年、自由にさせたつもりだが……まだ何かやりたいことがあるのか?」

 萌音は頷く。四年前には感じられなかった自分の意志をしっかりと持っている瞳に、父親は娘の成長を感じてグッときた。

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