Macaron Marriage
「えっ……私……ですか?」
「萌音さんが新しいことを始めようとする姿に刺激を受けましてね、私も何か始めたくなっちゃったんです。元々こういう自然の中で仕事をしたいと思っていたので、始めたらすごく楽しくなって、今はこっちに移住し式場の運営と農業に携わりながら一人気ままに過ごしてるんですよ」

 その言葉を聞いてドキッとする。ずっと気になっていたことを聞くなら今かもしれない。萌音は意を決して口を開く。

「あの……翔さんは結婚はされていないんですか?」
「もししていたら、萌音さんをこうやって誘ったりはしませんよ。それに付け加えるのなら、付き合っている人もいません」

 どこかホッとして、何か期待している自分を精一杯否定する。恋はしないって決めたじゃない。恋をしたらきっと引き返せなくなっちゃう。なのに彼へのときめきを抑えることができないの。

 その時、翔の手が伸びてきて、萌音の髪に触れた。撫でるような仕草に、息が出来なくなる。

「もしかしてこのブローチって、あの時に私があげたものですか?」

 翔の指がブラウスの襟元に下りていく。それはあの日に翔からもらった蝶のブローチだった。

「そうなんです……このブローチのおかげで、めげそうになったりホームシックになった時も助けてもらえました……」
「そうでしたか……それは良かった」
「あの、約束って覚えてますか……?」
「……もちろん覚えてますよ。何かお土産を買ってきてくださったんですか?」

 忘れられていても仕方ないと思っていたのに、覚えていてくれたと思うだけで安堵する自分もいた。

「……今日は持ってくるのを忘れてしまったんです……。あの、明日お渡ししても良いですか?」
「ええ、楽しみにしています」

 二人は微笑み合うと、再び食事を始めた。
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