Macaron Marriage
「あの、もしかして先輩がお話していたのって……」

 波斗が尋ねると翔は頷く。すると今度は紗世が波斗の膝に手を載せながら、身を乗り出すように萌音に話しかけた。

「ドレスを作られている方ですよね?」
「あっ、はい、そうです!」

 ドレス? そこでようやく自分が呼ばれた意味が理解出来た。

「僕たち元々結婚するつもりだったんですが、まさか授かり婚になるとは思っていなくて……。実はプロポーズの前から先輩の式場に問い合わせはしていたんだけど、三ヶ月後に式を挙げたいって相談したら『一度二人で見においで』って言ってくれて」

 波斗が話している間も、二人は目を合わせながら微笑み合っている。

「二人は家族と親しい友人だけを招いて、なるべく小さな結婚式にしたいそうなんです。ただ日数もないし、うちの式場は基本ドレスは持ち込みでお願いしているのですが、妊娠中ではいろいろと不便もあるかと思いまして、萌音さんのお店を紹介させていただいたんです」

 翔の話に納得しつつも、何故か萌音は浮かない表情をしている。

「そうだったんですか。でもうちのドレスでいいんでしょうか? なんというか……その……ちょっとデザインにクセがあるというか……」

 翔の紹介ということもあり、どこか引け目を感じてしまう。自ら探してきてくれたお客様ではない分、きちんと意向に沿えるのか心配でもあったのだ。

 モジモジする萌音を見て、そこにいた全員が笑い始める。

「さっきホームページを見せてもらったけど、別にクセなんてなかったよね。むしろ紗世ちゃんにすごく似合う気がした」
「うん、すごく可愛かった。あの、マタニティのドレスって取り扱ってますか? 今から三ヶ月となると、お腹も出てくるかなぁって思っていて」

 二人の会話に、ホッと胸を撫で下ろす。そんなふうに言ってもらえたら、俄然やる気がみなぎってくる。

「あのっ、うちではオーダー、セミオーダー、レンタルをやっているのですが、どれであってもマタニティドレスに対応は可能です。ご希望はありますか?」

 萌音が言うと、波斗と紗世が顔を見合わせる。

「私はレンタルでいいって言ってるんですけどねぇ……波くんがオーダーがいいって」
「だって……一生に一度のことだし……」
「逆に一度しか着ないのに勿体ない気もしない?」

 落ち込んだように下を向いた波斗を、紗世は愛おしそうに見つめながら背中を撫でる。

「波くんってば、私より乙女なところがあるんだから。まぁそこが可愛いんだけどねぇ」

 そんな二人のやり取りを見ながら、萌音の頭にある考えが浮かんだ。
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