Macaron Marriage
 廊下に出てから隣の部屋へ入ろうとすると、ドアの隙間から二人の話し声が聞こえてきた。

「さっき池上さんに私たちのことを話しちゃった……」
「そうだったんだ……。まぁ、瑞穂が良いなら構わないよ」
「ありがとう……そうしたらね、恵介があの家から私を連れ出してくれた日のことを思い出して……もし恵介があの日来てくれなかったら、私は今もまだあの暴力に耐えていたのかなって思ったら、今の幸せに感謝しかないの」

 静かになったのでそろそろ部屋に入ろうかと中を覗いてみると、二人は抱き合ったままキスをしていた。そのため萌音は再び扉の影に隠れる。

「あの日は二人の転機になったよね……ようやく気持ちが通じ合って、瑞穂に夫がいるとわかっていても止められなくて何度も体を合わせて……」
「……自分の気持ちに嘘がつけなかっただけ。あの時のことは後悔してない……」

 先ほどの話と繋げていけば、前夫からのDVに耐えていた家から連れ出してくれた日に、二人は結ばれたということだろうか。つまりまだ結婚している時だった……。

 萌音はギリっと下唇を噛む。彼女にもしがらみがあったんだ。それでも抑えられない気持ちに正直になった事で、ようやく本当に愛している人と結ばれた。

 きっかけが何であったにしろ、松島さんは自分の未来を自分で切り拓いたんだと気付く。

 そしてハッとする。私だって今まで自分でやりたいことをやってきたじゃない。自分で未来を切り拓いてきたはず。それなのに今はもう父親の決めた未来を受け入れる覚悟でいる。
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