嫌われ夫は諦めない
夕食として出された皿の上には昨夜と同じく、ポテトが乗っていた。だが、今夜のポテトは皮がむかれている。さらにはりんごが彩りよく乗っていた。
「シャスナ、明日は食材も仕入れてくるよ」
「そうですか、お好きなようにしてください。ここの食事が気に入らないようでしたら、いつでも王都にお戻りくださって構いません」
「あのなぁ。そうは言ってないだろう」
文句を言われてもない袖は振れない。街に行けばそれなりの食材が手に入るが、それらは全て父のために料理している。最近はまた食が細くなっているから心配もひとしおだ。
正直なところ、リディオの働きはとても役立っている。シャスナだけでは修繕できなかった馬小屋も、屋根をふき直して新しくなった。庭木は手入れされ穴だらけの壁もなおりつつある。これら全ての費用をリディオが払っているのだから、感謝こそすれ、追い出すなんてあってはならない。
そんなことは十分わかっているけれど、どうにも素直になれない。夕食前には街で購入したドレスや下着を渡された。次に王都に戻った時には、もっと肌触りが良くて生地の美しいドレスを買ってくると言っていた。
(王都に戻ったら、もうここに帰ることなんてないのに)
そう思いながらもどこか期待してしまう。リディオであれば、このままここにいてくれるかもしれない。自分が願えば、とどまってくれるかもしれない。
それでも、期待などしてはいけないと囁く声が自分の内側から聞こえてくる。リディオが示してくれる愛を信じることができなくて苦しくなる。シャスナは黙ってポテトを食べていた。
リディオはこれまでシャスナが出会ったことのない男性だった。王子と聞くから我儘に育ったかと思えば、騎士団にいた時に鍛えられたからと力仕事を何でも引き受けてくれる。普段の振る舞いは粗暴で、言葉遣いも荒いか思えば、父と接する時は終始にこやかで上品だ。
シャスナがあばずれ令嬢という噂も知っていたから、「私はふしだらな女なの!」と言えば「そんなわけない」と平気な顔をしている。最近はリディオのことを考えない時はないほど、彼のことを思い出してしまう。
(あ、確かトマトが好きだって言っていたよね……)
新鮮なトマトを領民が差し入れてくれたから、明日はサラダだけではなくスープも作ってみようか。自然と彼のために献立を考え食材を選び、喜ぶ顔が見てみたいと思ってしまう。けれど、この感情を何というのかをシャスナはわからなかった。
ようやく訪れた初めての恋に気がつくのは、もう少し先のことだった。