嫌われ夫は諦めない

 執事ははぁ、と短くため息をついた。リディオがいることで、シャスナだけではなく執事もずいぶんと助かっていたのだろう。年齢を考えるともういつ退職してもおかしくないのに、シャスナ達親子のことを心配してここまでついてきてくれた。

「さぁ、夕食の用意をしないとね」
「はい、では先に下に行っております」

 執事は部屋から出ていくと、シャスナは寝台から降りて着替えるためにドレッサーの扉を開く。すると、真っ先に目に入ってくるのは深紅のドレスだった。

 リディオが街へ出て買って来てくれたドレスだ。こんな派手な色のドレスなんて、着ていく場所がないと伝えると「いつか一緒に王都へいくか」と言っていた。

 シャスナはドレスのドレープの部分に顔を埋めると、ひくっと息を吸った。泣きたくないのに、涙が出てしまう。彼はもう、ここに戻ることはないだろう。このドレスを着て、リディオと踊る自分を夢見た時があったけれど、そんな時はもう来ない。

 空は茜色に染まり、太陽が沈みはじめている。残されたシャスナはようやく、リディオのことが好きになっていたことを理解した。

 初めての恋だった。わかった瞬間、諦めるしかない恋だった。シャスナは涙が流れるままにして、ドレスの裾を持ち続けていた。


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