嫌われ夫は諦めない
「こちらがスティーズレン侯爵家でよろしいですか?」
「はい、私は侯爵の娘のシャスナです」
「よかった、無事にたどり着けました。私は王宮付の医師でございます」
「医師、医師って、お医者様? それも王都から?」
「はい、こちらで閣下が伏せておられると伺いましたので、診察に参りました。閣下は上の部屋でしょうか?」
王宮付の医師を証明する書類を確認すると、早速イヴァーノの部屋に案内する。医者は近くの街から以前は頻繁に来て貰ったが、シャスナが診療費を払えないとなった途端、手のひらを返すように訪問しなくなる。
困ったけれど処方される薬に変化はなかったため、今は薬だけを出してもらっていた。
「では、早速ですが閣下を拝見させていただきます」
「あのっ、……来てもらってお恥ずかしいのですが、我が家には医師に報酬をお支払いできる余裕がありません」
「そのことでしたら、伺っております。リディオ殿下から既に報酬も頂いておりますので、ご安心ください」
「え、リディオが?」
久しぶりに聞くその名前に驚いてしまうが、どうやらイヴァーノの容態を心配して手配したようだ。きっと、彼なりの思いやりなのだろう。今回はありがたく恩恵にあずかることにして父の部屋を案内する。
医師は長旅の疲れも見せず、イヴァーノを診察した。どうやら腸の働きがわるく、体内から汚物を吐き出す力が弱くなっているという。医師のアドバイス通りお腹を温めるようにして、新しく処方された薬を与える。
イヴァーノは薬を飲むと目を閉じて、そのまま寝入ってしまった。それでも青白かった顔色も、少し赤みを取り戻したようだ。
「先生、ありがとうございました」
「いえ、閣下の次はシャスナ様でよろしいかな?」
「私ですか? 私は悪いところなんて……」
「では、質問を変えますが月のものが最後に来たのは、いつでしたか?」
医師はシャスナの顔を見て問いかけた。最後に月のものがあったのは、リディオの来る半月前だったように思う。そうすると、しばらく来ていないことになる。
「シャスナ様も診察させて頂きますよ」
「は、はい……」