嫌われ夫は諦めない
戸惑いながらも診察を受けると、なんと妊娠しているという。今の月齢であれば、冬を過ごした後の春頃に生まれるようだ。
「あ、赤ちゃん、ですか?」
「はい、おめでとうございます。リディオ殿下も喜ばれるでしょうな」
「待って、あの……赤ちゃんって」
「もう一人の身体ではありませんから、無理は禁物ですよ」
衝撃的な事実を話した医師は、次に執事を診察をする。どうやら、リディオはこの屋敷にいる使用人全員を診察するように医師に告げていた。
さらに医師は近隣の街では手に入らない薬も惜しげなくシャスナに渡すと、忙しい身なのかすぐに王都へ帰ってしまう。
「赤ちゃん……」
平べったいお腹をさすっても、まだ膨らみも何もない。けれど、リディオが注いだ種が命を受けた。子どもができているなら、スティーズレン侯爵家も安泰だ。もう他に夫を受け入れなくてもいいことに気がつき、シャスナは自分の身体を抱きしめた。
「よかった、リディオ。……ありがとう、この子が一番のプレゼントだよ」
子どもは二人で育てよう、と以前彼は言っていたけれど、この子は自分が育てることになる。不安がないわけではないが、これまでもどうにかしてやってきた。
自分の他には年寄りしかいないような屋敷だけれど、無事に産んでみせる。この子には決して、寂しい想いをさせたくない。そして、母親の自分は父親を愛したことを、伝えていこう。そうすれば、きっとこの子は愛を信じることができるはず。
また涙を流しそうになるけれど、感傷に浸っている時間はない。冬が来る前に備えておかなければいけない。
シャスナは立ち上がって窓の外を見ると、そこには信じられない人物が馬に乗ってやってくるのが見えた。