嫌われ夫は諦めない
初めて自分の方から女に歩み寄ろうとした途端、断られてしまいリディオのプライドは粉々に砕け散った。まさか、自分のような男に『仮面夫婦』を持ちかけてくるとは思いもしなかった。
緑青の髪を緩めに伸ばし、意思の強そうな眉に高い鼻梁、普段から鍛えている身体にはぴっちりと筋肉がついている。他に何人もいる王子達の誰よりも剣技を得意とし、背も高い。
この顔にこの身体。気がつけば女達の方から群がってくる。そうはいっても危ない橋を渡るわけにはいかず、当たり障りのない女を相手にしていたつもりだったが、それが裏目に出てしまった。
婿入り先が決まり嫌々ながらも向かうとそこには悪女どころか妖精のような妻が待っていた。
といっても、外見だけが妖精で中身はツンツンした猫のような女だった。シャスナは何かと王都に追い返そうとしてきたが、言いつけられる事も新鮮で面白い。それよりも用事を押し付けておきながら心配になり、こそこそとこちらを伺うシャスナが可愛くてたまらない。
気がついた時にはシャスナに夢中になっていた。
時間がたてば素直になるかと思えばそうでもない。「はやく落ちてこい」と願うがそれは叶わない。信じられない、夫婦の愛が信じられないといって泣き出してしまう。
ここまで来ると、ここにいるだけでは証明できそうにない。思い切って王都にいったん戻り、疑問に思ったことを片っ端から調べることにして離れる前に一度だけ身体を繋げる。離れる前に、どうしても自分を刻み付けておきたかった。
王都に行く前には、病床にいるイヴァーノを訪ねた。
「閣下、王妃との関係をお聞かせくださいますか?」
「リディオ君、君の知っている通りだよ。僕は彼女に酷い言葉を浴びせ、悪役令嬢とまで呼んでしまった。幼い頃から一緒に育ち、将来は一緒になるものだとばかり思っていたのに。……僕は間違っていた」
「王妃との婚約を破棄されてから後、手紙などのやり取りはあったのですか?」
「いや、こちらからは何も知らせていない。といっても、向こうは気になるのか時折覗かれたと思うけどね。使用人を減らしたら、そんなことはなくなったけど」
「では、閣下の健康状態を王妃はご存知ないのでしょうか」
「……ないと思うよ」