嫌われ夫は諦めない
王都で確認すると、二十年前の王宮でイヴァーノ侯爵令息は、今の王妃セリーナを見世物のようにして婚約を破棄したという。結局のところ、悪役令嬢とまで呼ばれたセリーナは妻を亡くしたばかりの王太子と結婚し王妃となる。イヴァーノは騒動の責任を負って僻地へ送られ、妻アリアはシャスナを生んだ後彼らを捨ててしまう。
茶番のような出来事の後に残されたのがシャスナだった。彼女には何の罪もないのに、生まれた時から色眼鏡で見られることになる。さぞかし、生きにくかったことだろう。
本来であれば支給される侯爵手当も王妃セリーナの手によって止められていた。痩せた僻地に産業は少ない。盗賊も多く領民は今も貧しいままだ。領地からの税収も少なくシャスナ達は貧乏生活を余儀なくされていた。
それも、全てはイヴァーノの短慮からおこったことなので、彼にしてみれば自業自得と言える。だが、子どもは子どもだ。親の業を背負う形となり、シャスナは男女の恋愛を避けるようになっていた。
「苦労ばっかりしていたんだな」
全く男なれしていなかったのに『あばずれ令嬢』と噂されていた。容姿がアリアにそっくりなことが、王妃の感情を逆なでしたのだろう。だが、それももう二十年も前の話だ。王妃に「もう十分イヴァーノへ仕返しをしたんじゃないか」と問えば、「そうね」と力なく頷いた。
イヴァーノの様子を伝え、すまなかった、と彼の言葉を伝えた途端、崩れ落ちるように泣き始めた。王妃の部屋を退去すると、侍女から王宮付の医師を急いで派遣すると伝えられる。さらに、二十年分の貴族手当の倍の金塊を受け取ることになった。これだけで一財産だから、これを元手にすれば僻地であっても新しい産業をスタートできるだろう。
何より、これからは侯爵家としての体面を整えることができる。王妃がイヴァーノへ手紙を用意したいと言ったため、それを待つと予想以上に日がかかってしまう。
王室専属医を送り出した後は、自分も完成した謝罪文を持って引き返す。気がついたら一カ月も過ぎてしまっていた。