片恋慕夫婦〜お見合い婚でも愛してくれますか?〜
私たちが勤める料理教室では、少人数制をとっており、通常講師一人につき生徒が四、五人ほどつく。もしマンツーマン授業を希望する生徒がいれば、四回分の授業料を払えば講師一人を貸し切りできるシステムになっている。
マンツーマン授業といっても制度があるだけで、授業料が高額ということもあり、利用する人はほとんどいない。稀にあっても、年末のおせちなどの特別授業やホームパーティーのために料理を持ち帰りたいといった特殊なケースばかりだ。
ところが、今日は基礎の家庭料理の授業を貸し切りで予約している生徒がおり、この後私がつくことになっている。しかも、一度も教えたことがない生徒だから、少し不思議に思っていた。
「もしかしたらSNS見て予約してきたのかもよ? そういう生徒さん多いもんね」
「どうだろう。でもそうだったら嬉しいな」
急に騒がしくなり出した教室を見回すと、十時からの授業に向けて生徒たちが続々とやってくる。
郁ちゃんとの話はそこそこに準備を急いだ。
◇
授業の時間になると、料理教室に似つかない甘やかなフローラルの香りを連れて、小花柄のエプロンを身に着けた女性が現れた。
年齢は二十代前半くらいだろうか。くりっとした大きな目に、ぷっくりと濡れた厚い唇。顔のパーツは全体的に丸みがあって愛らしいが、意外にも身長が高く、視線を少しだけ上に向けた。
「おはようございます。ええと……」
ネームプレートを見ると、白鷹智美(しらたか ともみ)と書かれている。珍しい名字には、なぜか見覚えがあった。
「白鷹さんですね。椹沢です。よろしくお願いします」
仕事用に旧姓で名乗ると、彼女はじっと私を見つめたまま。
探るような視線に戸惑っていると、にっこりと笑顔を向けられた。
「お会いできて嬉しいです。実はずっとSNSフォローしていて。緋真先生って呼んでもよろしいですか?」
マンツーマン授業といっても制度があるだけで、授業料が高額ということもあり、利用する人はほとんどいない。稀にあっても、年末のおせちなどの特別授業やホームパーティーのために料理を持ち帰りたいといった特殊なケースばかりだ。
ところが、今日は基礎の家庭料理の授業を貸し切りで予約している生徒がおり、この後私がつくことになっている。しかも、一度も教えたことがない生徒だから、少し不思議に思っていた。
「もしかしたらSNS見て予約してきたのかもよ? そういう生徒さん多いもんね」
「どうだろう。でもそうだったら嬉しいな」
急に騒がしくなり出した教室を見回すと、十時からの授業に向けて生徒たちが続々とやってくる。
郁ちゃんとの話はそこそこに準備を急いだ。
◇
授業の時間になると、料理教室に似つかない甘やかなフローラルの香りを連れて、小花柄のエプロンを身に着けた女性が現れた。
年齢は二十代前半くらいだろうか。くりっとした大きな目に、ぷっくりと濡れた厚い唇。顔のパーツは全体的に丸みがあって愛らしいが、意外にも身長が高く、視線を少しだけ上に向けた。
「おはようございます。ええと……」
ネームプレートを見ると、白鷹智美(しらたか ともみ)と書かれている。珍しい名字には、なぜか見覚えがあった。
「白鷹さんですね。椹沢です。よろしくお願いします」
仕事用に旧姓で名乗ると、彼女はじっと私を見つめたまま。
探るような視線に戸惑っていると、にっこりと笑顔を向けられた。
「お会いできて嬉しいです。実はずっとSNSフォローしていて。緋真先生って呼んでもよろしいですか?」