片恋慕夫婦〜お見合い婚でも愛してくれますか?〜
艶のある黒髪はすっきりとまとめられ、意志の強そうな秀でた眉が主張している。程よく掘り深い二重と、シャープな鼻筋に薄く色気のある唇。まるで絵に描いたような美男だ。
おまけに、一八〇センチメートルは超えているのではないかという高身長。そして、埃一つ見当たらない仕立ての良いスーツからは清潔感が溢れており、ジャケットの広がり方から、その下には確かな筋肉があることが容易に想像できた。
かっこいい、なんてありきたりの言葉では表現できない。あまりの容姿の良さに圧倒されて固まっていると、男性が一歩前に出た。
「お待たせしてすみません」
「やあ伊織(いおり)くん、待ってたよ」
父と面識があるのか、伊織と呼ばれた男性が父と軽い挨拶を交わす。
落ち着いた重低音の声は耳障りが良く、音の余韻に浸っていると、男性がこちらを見た。
「っ……」
澄んだ琥珀色の瞳に射貫かれて、言葉を失ってしまう。
形式上はお見合いだが、自らのタイミングで挨拶していいのだろうか。
躊躇っていると、助け舟を出すかのように神花社長が口を開いた。
「息子の伊織だよ。二人は小さい頃に一度会ったことがあるんだけど……さすがにもう覚えてないかな」
両親からも軽くそんな話を聞いた気がするものの、物心つく前のことなのか、まったく記憶がなかった。
「すみません……」
正直に謝罪をすると、神花社長は穏やかな笑みを浮かべた。
「仕方ないよ。ささ、立ち話もなんだから、座ろうか。今日はお互い堅苦しいのはなしにしよう」
「は、はい」
促されるままに席に着くと、ウェルカムドリンクとしてシャンパンがサーブされる。
ドリンクが揃うのを待って乾杯が行われた後で、互いに簡単な自己紹介を済ませると、両親たちが率先して話を進めてくれた。
「そういえば、伊織くんは今、東梨(とうりん)医科大学病院で働いているんだよね。今年アメリカから戻られたのだとか」
「はい。病院からのご厚意もあってカルフォルニアの病院へ五年ほど、研究も兼ねて。今は形成外科医として勤めております」
淡々とした会話に、父が「立派だ立派だ」と力強く頷く。
縁談の話を相談された際に軽く聞いていた話だが、この神花伊織という男は、ありえない経歴の持ち主だった。